ニンジャスレイヤーはほとんどのエピソードが1話完結です。

短編から長編、ギャグにシリアス、様々なキャラクターや組織に焦点は移り変わり、バリエーションは実際かなり豊富です。

第1部『ネオサイタマ炎上』は書籍の第1巻~第4巻に該当しますが、書籍に掲載されているエピソードはおよそ40編にも渡ります。さらに未公開のエピソードの存在もすでに知られていますし、エピソードの時系列はバラバラに展開されるので後からエピソードを差し込むという大技をすることも可能な構成です。

ニンジャスレイヤーはこれだけの話数がありながらもジェットコースターのように右に左にとエピソードは目まぐるしく展開し、そのアイデアの豊富さには本当に驚かされ飽きがくることはありません。もちろん中には面白くない(肌に合わない)ものもあるでしょうが、豊富なエピソードがあるからこそ面白いと思えるエピソードの方が印象に強く残るのだと思います。

この第3巻は私にとって印象の強いエピソードが豊富に掲載されています。第1巻と第2巻を通してニンジャスレイヤーの世界にはまっていく中、この第3巻が決定的な一冊になったような気もします。

第1巻も第2巻も素晴らしいものだと思いました。しかしその感情を確固たるものへと変えたのは間違いなくこの第3巻でしょう。私と同じような感想を抱いた方も少なからずいるのではないかと思います。

ね、ヤクザ天狗とかなんだよ、あれ。狂ってるのに面白いとか卑怯もいいとこだ。うちのニューロンはもうすでにニンジャスレイヤーに最適化されてしまったのだろうか。アバババ……。

さあ、書籍第3巻の感想と紹介です。

第3巻の掲載エピソード

この第3巻は1,2巻に比べて掲載エピソードが少ないです。

短編よりも長編が多く掲載されており、明らかに話の内容が濃くなっていきます。この第3巻からどんどんとストーリーは進展し、第1部のクライマックスである第4巻へと続いていく流れとなっています。

◆メリークリスマス・ネオサイタマ (Merry Christmas Neo-Saitama)

◆コンスピーラシィ・アポン・ザ・ブロークン・ブレイド (Conspiracy upon the Bronken Blade)

◆ネクロマンティック・フィードバック (Necromantic Feedback)

◆ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ (One Minute Before the Tanuki)

◆アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ (Atrocity in Neo-Saitama City)

◆グランス・オブ・マザーカース #2 (Glance of Mother-Curse #2)

◆エヴァーフェルト・チーティド (Ever Felt Cheated?)(書籍限定)

◆ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション (Stranger, Stranger than Fiction)

ここでは『メリークリスマス・ネオサイタマ』、『ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ』、『アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ』の3編をご紹介したいと思います。

メリークリスマス・ネオサイタマ (Merry Christmas Neo-Saitama)

 → ニンジャスレイヤー Wiki* 「メリークリスマス・ネオサイタマ」

第1部『ネオサイタマ炎上』の中でベストエピソードを一つ選ぶのでしたら、私はこの『メリークリスマス・ネオサイタマ 』を推したいと思います。

猥雑で混沌とした近未来都市ネオサイタマの情景。

悪の首領であるラオモト・カンの存在感。

ニンジャ同士の迫力あるカラテ

そして、ニンジャスレイヤーこと主人公フジキド・ケンジの苦悩と決意……。

このエピソードにはニンジャスレイヤーの魅力が凝縮されており、その全てがあると言っても過言ではないと私は思います。短いエピソードながらも全てがバランス良く、魅力が凝縮された完成度の極めて高いエピソードです。正直、他のエピソード群よりも頭一つ飛び抜けているとすら思っています。

情景描写や心理描写なども簡潔でありながらも奥深く、無駄なところが見当たらない文章とストーリーには、流麗さと一種の文学性すら感じてしまいました。ああ、もう、かなりのべた褒めです。

この『メリークリスマス・ネオサイタマ』は2013年のクリスマスにTwitter上で再放送がされています。初出は2010年11月。

 → Togetter 「メリークリスマス・ネオサイタマ」 第2回再放送まとめ

放送終了後、翻訳チームから以下のようなメッセージが投稿されています。これはちょっと注目に値するのではないでしょうか。

第1巻を宣伝しといて実際に掲載されているのは第3巻というフシギ!

さておき、このメッセージから翻訳チームは、『メリークリスマス・ネオサイタマ』を回帰すべき重要なアーキタイプであると認識しており、このエピソードは油断ならない面白さであると考えているようです。

では、なぜ第1巻に掲載せずに第3巻に掲載したのでしょうか。そこまでに重要で面白いエピソードならば、読者に印象づけるために第1巻に掲載すべきだったのかもしれません。『ニンジャスレイヤー Wiki*』においても初心者が最初に読むおすすめエピソードの一つに推薦されています。

しかし掲載されたのは第1巻でも第2巻でもなく、この第3巻でした。

ニンジャスレイヤーの大きな特徴として掲載されているエピソードの時系列がバラバラであることは周知の通りです。

一見するとランダムで無秩序な構成に見えますし、翻訳チームもランダム掲載しているとアナウンスしています。しかし、ほぼ間違いなく掲載順序は相当考え抜かれているはずです。商売である以上当たり前と言えば当たり前な話ですが、第3巻の冒頭にこのエピソードを掲載する辺りにも翻訳チームの技量や熱意を感じ取ってしまう私でした。

ニンジャスレイヤーを第1巻、第2巻と読み進めるうちに予想外の完成度に驚く読者は実際多いと思います。しかし、本当の意味で物語の柱となる部分はまだ掴み切れていないはずです。なぜなら第3巻でようやく掲載された『メリークリスマス・ネオサイタマ』こそが、その柱となるエピソードなのです。

ニンジャスレイヤーのエピソードは実にバリエーションが豊富で色々な方向性の面白さを持っています。しかし猥雑に混沌とした物語の中、ともすれば読者は方向性を見失いがちになってしまいます。物語の根幹部分をなしているものは一体何なのか? その中心の柱があってこそ、物語の多様性が保たれて面白さへとつながります。

第1巻と第2巻で世界観の奥深さやキャラクターの魅力を読者は体験することが出来ました。そして第3巻の最初に掲載されている『メリークリスマス・ネオサイタマ』を読むことで、物語の根幹部分をはっきりと理解することが出来るのです。猥雑にカオスめいた物語の展開にここで基礎が確立されます。焦点が定まり物語の方向性が確実に見えてきます。

第3巻の一番最初に『メリークリスマス・ネオサイタマ』が掲載されたのは読者の意識を決定づけるためだと私は思っています。ニンジャスレイヤーの印象が定まっていない序盤では意味をなさず、クライマックスに突入する前でなければ物語の焦点が狂ってしまう。まさにこの第3巻の一番最初という位置こそが、このエピソードにふさわしいタイミングなのです。

ゆえにこの『メリークリスマス・ネオサイタマ』はただのアーキタイプなのではなく、回帰すべきアーキタイプであると翻訳チームにも言われるのではないでしょうか。ある程度世界観を体験した後に物語の一番純粋な中心部分へと回帰することで、物語の柱を理解しながら方向性を見誤らずにクライマックスへと進むことが出来るのです。

その意味で『メリークリスマス・ネオサイタマ』は決して見逃すことの出来ない最重要なエピソードなのだと私は思いますし、実際内容には文句のつけようがありません。

第1部『ネオサイタマ炎上』のベストエピソードだと思います。

 → ニンジャスレイヤー Wiki* 「メリークリスマス・ネオサイタマ」

ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ (One Minute Before the Tanuki)

このエピソードは二つの点で重要かつ、面白い内容になっています。

一つはニンジャスレイヤーの協力者であり相棒である「ナンシー・リー」に重点が置かれているところ、そしてもう一つが「コトダマ空間」について言及されているところです。

ニンジャスレイヤーの名相棒のナンシー・リー。 このエピソードにおいてニンジャスレイヤーとの絆と信頼を獲得していく。 実際豊満。 ニンジャスレイヤー 第3巻 169ページより

ニンジャスレイヤーの名相棒のナンシー・リー。
このエピソードにおいてニンジャスレイヤーとの絆と信頼を獲得していく。
実際豊満。
ニンジャスレイヤー 第3巻 169ページより

ナンシーは物語序盤にニンジャスレイヤーと出会い、協力関係になったジャーナリストの女性です。

美しい美貌に豊満な胸、そして行動力の高さが魅力的な女性で、ハッカー能力がずば抜けて優れています。主に情報収集やハッキングでニンジャスレイヤーをサポートしていく相棒であり、主役キャラクターの一人です。

二人が出会った最初期の頃は互いにビジネスの相手として協力はすれども、信頼関係はあまり築けていない状態でした。

二人の関係は決裂していくかと思いきや、この『ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ』のエピソードにおいて二人の信頼関係が構築されることになります。そしてナンシーの才能も開花していき、ニンジャスレイヤー全編において重要な相棒キャラクターへとなっていくのです。このエピソードはその大事なターニングポイントであり、ナンシーの魅力が存分に描かれたエピソードなのです。挿絵とかねフィヒヒヒ!

それと、このエピソードはタイトルがいいですよね。何と言うか、リズムとか響きが心地良いです。私の中では第1部のベストネーミングエピソードです。

ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ

最後の『タヌキ』という日本語が不思議と英語の発音の中に溶け込んでいて、神秘的な一体感を与えてくれます。タヌキ!

この『タヌキ』というキーワードがエピソードの中で重要な役割を果たしていて、日本人ならば読んでいて思わず楽しくて笑ってしまう内容になっています。それもこのエピソードが面白いところです。タヌキ!

 → ニンジャスレイヤー Wiki* 「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」

アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ (Atrocity in Neo-Saitama City)

おそらく、第1部『ネオサイタマ炎上』の中で最も問題なエピソードなのが、この『アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ』ではないでしょうか。ロブスター除く

このエピソードは狂気に満ちています。

いやいや、ニンジャスレイヤーの物語自体がすでに狂気染みてはいます。現代の日本に生きる私たち読者にとってはニンジャスレイヤーの登場人物や世界観は奇妙にずれていて狂気を感じずにはいられません。しかしそれは読者目線の話であって、物語に登場する人物たちにとっては普通(?)の日常という側面を持っているために、どこか安心というか納得した上で読み進めることが出来ます。ネオサイタマにおいてはチャメシ・インシデントです。

しかし、そんな世界観の中ですら『彼は狂っていた』と言われる人物がこのエピソードには登場します。私たちから見たら十分に狂っている物語の中で、さらに狂っていると言われるほどの人物とは一体何なのか。

それがヤクザ天狗の存在です。

そっかー、天狗ってフェアリーだったんだー。勉強になるなー……。

ヤクザじゃありません。天狗でもありません。

ヤクザ天狗です!

わけがわからないよう……。

ヤクザで天狗ってなんだよ……。

しかもこのヤクザ天狗=サンの言ってるセリフが本当に狂っててさっぱり理解出来ないよう……。 

 このエピソードはヤクザ天狗というキャラクターに重点が置かれており、彼の狂気が吹き荒れる内容となっています。そのあまりの恐ろしさゆえ、このエピソードがTwitterで初公開されたときの実況タグは阿鼻叫喚の嵐だったそうです。

しかもこのヤクザ天狗と同時連載されていたのが『スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ』だったというのが信じられないです。作中屈指の感動エピソードと作中最狂の狂気エピソードが同時連載って……。私はこの当時を知りませんが、この時の実況に参加した方々の精神状態を考えると恐ろしくてたまりません。

 → Togetter 天狗リアリティショック 実況の一部まとめ

第3巻の序盤には『メリークリスマス・ネオサイタマ』や『ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ』など良質で重要なエピソードが続き、ニンジャスレイヤーの奥深さや設定の緻密さに驚かされて改めて面白い小説だなーっと感動していると、不意打ちのようにヤクザ天狗がやってきます。

私はもう、頭を10tハンマーでぶん殴られたような気分でした。あまりの衝撃に頭が理解を拒み始めます。

ヤクザ?天狗?ヤクザ天狗?アイエエエ……分からないよう……。

しかも何が一番恐ろしいって、このエピソードは狂気に満ちていながらも本当におもしろいのです。なんか悔しい!

ヤクザ天狗は狂っていながらも魅力あるキャラクターだし、ただのモータル(ニンジャではないただの一般人のこと)のくせにニンジャに勝ってしまう戦闘力の高さには度肝を抜かれます。

登場する他のキャラクターたちもすごく味があり、狂気に満ちた問題あるエピソードながらもこれもニンジャスレイヤーの面白さなんだなーっと実感出来るエピソードだと思います。……ソウイウコトニシテオコウ。

 → ニンジャスレイヤー Wiki* アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ

感想

この第3巻は世界観やストーリー上で重要になるエピソード、そしてキャラクターがかなり多いです。主役級や準主役級のキャラクターたちが次々に登場し、ストーリーもクライマックスに向けて動き始めていきます。

しかし、先述したとおりに第3巻の冒頭に『メリークリスマス・ネオサイタマ』が掲載されていることで、読者としては物語の柱がしっかりと構築されるので足場を見失うことはないでしょう。ニンジャスレイヤーという物語の中心を理解した上で、クライマックスへと向けた怒濤の展開を楽しめるのです。

で な け れ ば ヤ ク ザ 天 狗 な ん て ま と も な 精 神 状 態 で 読 め る わ け な い じ ゃ な い で す か ー

ニンジャスレイヤーってやっぱり狂った物語だなーっと思い知ると同時に、狂気に満ちていながらも面白いエピソードな辺りがまた恐ろしくてたまらないのです。もはや作品が狂っているのか、それとも私が狂っているのかこんがらがってきてしまうのでした。ピガガガガーッ!

その意味で、この第3巻は一つの分水嶺になるのではないでしょうか。

良質のエピソードを読んでどんな感想を持つのか、ヤクザ天狗と出会いそのエピソードにどのような評価を下すのか。

この第3巻を夢中になって読み進めるような読者であれば、きっとニンジャスレイヤーから逃げ出すことは、もう無理でしょう。

つまり私です。