さて、引き続き橙乃ままれの『ログ・ホライズン』を紹介します。

表題の『キャメロットの騎士たち』というのはアーサー王伝説にちなんだもので、キャメロットはアーサー王の王国、ログレスの都のことです。

このキャメロットの地に城を築き、あの有名な円卓の騎士たちが集いました。上座も下座も存在しない円卓での会議は、その席に座る者たちが等しく平等であることを表しています。

本書『ログ・ホライズン 2 キャメロットの騎士たち』は、今後の物語の方向性を決定付けるターニングポイントとなる巻です。これ以後、本当の『ログ・ホライズン』が始まると言っても過言ではないと思います。

第1巻で<エルダー・テイル>の世界に囚われたシロエたち。

その混乱の中、友人の知り合いがススキノの街に取り残されてしまい、シロエたちはその子を助けるためにススキノへの遠征を決行。無事救出を終え、古い友人の『にゃん太』とも再開したシロエたちは再びアキバの街に戻ってきます。ここからが第2巻の内容です。

シロエたちがアキバの街に戻ってきた頃、街中は一時の殺伐とした状況から表面上は落ち着きを取り戻していました。シロエたちが街を離れている間に、プレイヤー間での“格付け”が終わったのだと友人のマリエールは言います。

街では、多くのメンバーや高レベルのメンバーを揃える大手のギルドが力を持ち始め、居住区やマーケットの優先権、フィールドの独占などが始まっていました。大手ギルドに所属する者が大きな顔をし、中小の零細ギルドやギルドに所属していない者たちは隅へと追いやられていたのです。

さらに<ハーメルン>というギルドが初心者救済を謳って多くの低レベルプレイヤーたちを集め、初心者に自動で配布される<EXPポット>というお助けアイテムを大手ギルドに売るという商売を行っていました。

<ハーメルン>は初心者プレイヤーを軟禁し奴隷状態にしていたのですが、その背後には大手の戦闘系ギルドが控えていて、誰もが口出しを出来ない状況になっていたのです。

そしてその<ハーメルン>には、シロエが最近知り合った双子の初心者プレイヤーも捕われていました。

(でも、なんだか・・・・・・嫌だな。気持ちが悪い・・・・・・)

―それは少しも格好よくない。シロエはそう思う。

その嫌悪感は渦を巻くばかりだ。

―どこそこが悪いから悪い、とはいえへん。マリエールはそういった。たとえば、狩り場を占有するのは確かに見栄えのすることではないかもしれない。しかし、悪いかといえばそうともいい切れない。少なくともこの世界には法律はなく、その意味で法的に罪と断言することはできない。

出典:『ログ・ホライズン 2 キャメロットの騎士たち』p.92

ルール上は問題視されず、法の適用も行われないこれらの状況にシロエは嫌悪感を覚えます。多くの人々もそれを感じているのですが大手ギルドには逆らえず、誰も声を上げることは出来ませんでした。

そしてそんな状況を見て見ぬふりをしている自分自身にも、シロエは嫌悪感を抱いています。何もせずにこのままでいいのか、このままアキバの街は荒んでいくのか。シロエはどうすればいいのか悩み考えます。

そんなシロエをススキノで再開した旧友のにゃん太が気にかけてくれます。

にゃん太は年寄りを自称する猫人族のプレイヤーで、若者が多いオンラインゲームの中、落ち着いた物腰に紳士的な態度から“大人”なプレイヤーとして周囲からは尊敬されていました。シロエもにゃん太のことを『班長』と呼んで慕っています。

にゃん太は思い悩むシロエに対して、その心中を見透かしたかのように言葉を投げかけます。

「班長。僕はどうすればいいのかな・・・・・・」

シロエの言葉に、にゃん太は同じ月を見上げる。

黒い耳が風に吹かれてひょこひょこと動き静かになる。

「一番すごいことをするといいにゃ」

「すごい・・・・・・」 シロエはにゃん太を窺う。その表情はいつもどおり穏やかだったけれど、月の光の中でいつにもまして大人に見えた。

「シロエちは遠慮をしすぎにゃ」

出典:『ログ・ホライズン 2 キャメロットの騎士たち』p.107,108

猫人族のにゃん太 その性格の良さや言動から人気のキャラクター

自称年寄りのにゃん太。落ち着き穏やかな紳士はいつでも若者を見守り的確な助言をしてくれる。 画像は橙乃ままれ公式 キャメロットの騎士たちのページより http://mamare.net/character/987/

このにゃん太がまたかっこいい。早くアニメで動いてしゃべるにゃん太が見たい。

悩むシロエを動かしたのは旧友であるにゃん太の後押しと、シロエを信頼してくれている仲間たちの存在でした。シロエは遂に行動を始めます。

この第2巻の最大の見所は、何と言ってもシロエが本気を出して戦うところにあります

かつて<エルダー・テイル>がまだゲームだった頃、<放蕩者の茶会>という集団がいました。

<茶会>はギルドではなく、ただなんとなく集ったメンバーで構成されていました。そこには何か目的や理由があったわけでもなく、気心の知れたメンバーが集まってやりたいことをして遊んでいたのです。

しかしその実力はゲーム内でも指折りで、大手ギルドと戦線を張るほどのものでした。少数精鋭の実力派で、古参プレイヤーたちの間では知る人ぞ知る集団だったのです。

主人公のシロエはその<茶会>の参謀役を務めた中心人物の一人でした。

しかし<茶会>が解散した後、シロエはどこに所属するでもなくソロプレイヤーの道を選びます。人付き合いが苦手で内気な性格も理由ではあるのですが、何よりも、<茶会>で数々の戦績を残したシロエを利用したがる人々に嫌気が差したのが一番の理由です。

悩むシロエの背中をかつての<茶会>の仲間であるにゃん太が後押しをし、シロエは戦う決心をいよいよ固めるのでした。

ここにシロエは<記録の地平線>、ログ・ホライズンというギルドを作り、行動を始めます。

この第2巻に限らず、『ログ・ホライズン』の最大の面白さは<エルダー・テイル>というオンラインゲームの存在です。第1巻ではこのゲームの設定を読者に提示しながら、謎の異世界のシステムを解説していきました。

当然、物語の中のプレイヤーたちも、そして読者も、この謎の異世界はゲームの世界なのだと認識して物語は進んでいます。ゲーム時代の<エルダー・テイル>の常識は、この異世界での常識というわけです。

しかし、たった一人、シロエだけはそう思ってはいませんでした

時間が経てばシロエと同じ考えに至る人はいたはずです。にゃん太も理解していた節はあります。でも、いち早く気づき、行動を起こしたのはシロエただ一人でした。

この異世界は<エルダー・テイル>の世界に共通する事項は数多くあるけれど、ゲームとは決定的に違うということをシロエは理解していたのです。

シロエは行動を起こし、アキバの街の主なギルドに話をつけて<円卓会議>を招集します。これがサブタイトルにも出てくる『キャメロットの騎士たち』の由縁です。

<円卓会議>にはアキバの街を代表する大手ギルドのマスターたちが集められました。彼らは今後のストーリーにも大きく関わってくる準主人公たちです。互いが利害の関係でけん制し合っている中、シロエは彼らを説得して今後のプレイヤーたちの方針を定めようとし、結果的に成功を収めます。

第2巻ではこの会議を設立させるために、シロエが決意を固め行動を起こすことが中心となるのですが、その過程が何よりも面白く、爽快なのです。

大手ギルドが人数や武力で活動を広げる中、シロエはたった数人の戦力でこれをひっくり返します。直接的な武力は用いずに、策略をめぐらせ、全てはシロエの手のひらの上で流れていきます。そのための知識も知恵も度胸もシロエは持っており、ここに<茶会>の参謀役としての本領を見せ始めていくのです。

こういった知謀策略の描写は橙乃ままれの真骨頂でしょう。

これまでの物語の進行から、読者はプレイヤーたちと同じく“常識”というものを刷り込まれています。自分の持っている常識と、異世界の常識を照らし合わせて行動し、未来を予測しているのです。

しかし、それをシロエが全てぶち壊します。

思考の転換点とでも言いましょうか、パラダイムシフトとでも言いましょうか、読書をしていてこれほど楽しい瞬間というものは存在しません。

シロエの取った行動から物語は急激に方向性を変えていきます。

私は、まるで物語に色彩が生まれたかのような印象を受けました。謎の異世界に囚われたプレイヤーたちは生きる気力もなく、ただただ灰色な世界へと沈んでいきます。そこにシロエが投じた一石は、人々のこれまでの認識を変え、読者にすらこの異世界の見え方を変えさせてしまったのです。

その瞬間、視界は広がり、世界が輝いて見えました。

これから物語はどう動いていくのだろうか、続きが気になって気になって仕方がなかったのです。

第2巻は『ログ・ホライズン』の第1部の中で最も重要なところです。ここでプレイヤーたちは自分たちがいる謎の異世界が、ゲームの世界ではないということを認識します。

この舞台装置が『ログ・ホライズン』をただの異世界ゲームの物語で終わらせない最大の要因です。ゲームの世界を超え、物語は大きく広がりを持ち始めることになります。

続く第3巻のサブタイトルは『ゲームの終わり』です。

ゲームは終わり、シロエたちがこの異世界で生きていく物語が今始まります。