前回に引き続き、橙乃ままれの『ログ・ホライズン』を紹介していきます。

本書の第6巻より第2部『ログ・ホライズン』がスタートします。第1部で<円卓会議>を設立し謎の異世界で戦い生きることを選んだプレイヤーたちの、本当のサバイバルがここから始まるわけです。

第2部最初の本書はメインヒロインであるアカツキに焦点を当てながら、<アキバの街>に突如として現れた“殺人鬼”による事件を追っていきます。

<アキバの街>で<冒険者>が何者かによって殺害されるという事件が相次いで発生しました。

本来なら街中で戦闘行為をすると衛士が裁きを与えるはずでしたが、肝心の衛士は殺人事件を認知出来ず、さらには<冒険者>は死んでも復活することが出来るために誰もが大して問題視はせずに楽観視していました。

しかし事件の全貌が分かるにつれ、事の重大さをアカツキたちは認識し始めます。

そして“殺人鬼”を止めるために、<アキバの街>を舞台にした大規模戦闘が幕を開けるのでした。

いよいよ『ログ・ホライズン』の第2部がスタートしました。

単なるオンラインゲームの要素を含んだ異世界物語に終わらず、ゲームの枠を超えた設定が第1部『ログ・ホライズン』の面白さでした。誰もがゲームだと思いこんでいた世界にシロエはNOを突きつけたのです。

第2部からは、多くのプレイヤーが真剣に異世界と向き合うことを始めたことで次々と新しい発見が出てきます。そしてその内容がこれまた面白い。

その一つが本書第6巻で明らかになる“口伝”の存在です。

まだ<エルダー・テイル>がゲームであった頃では、習得出来るスキルに一定のランクが存在しました。プレイヤーがスキルを習得するとまずは“会得”の状態になり、条件を満たすことで“初伝”、“中伝”、“奥伝”、“秘伝”とランクが上がっていき、それに伴ってスキルも強力になっていきます。このシステムにより、同じスキルを使うプレイヤーでも力量に差が生まれるというわけです。

ところがプレイヤーたちの間では、“秘伝”の上に“口伝” というスキルが存在すると噂されていたのでした。

しかし、“秘伝”ともなると、専用のクエストを突破しなければ身につけることはできない。そしてこの専用クエストは大規模戦闘参加が必要なのだ。大規模戦闘ギルド所属の超一流<冒険者>と、アカツキのような二流<冒険者>との間にある戦闘能力格差の原因のひとつが、この特技習得難易度にあった。

“口伝”とは、噂によれば“秘伝”のさらにその先のものである。

出典:『ログ・ホライズン 6 夜明けの迷い子』p.21

“秘伝”の段階でも、超難関と呼ばれるようなクエストをクリアする必要があります。

主人公のシロエは“秘伝”のスキルを駆使する超一流のプレイヤーですが、アカツキのスキルはほとんどが“中伝”か“奥伝”止まりです。アカツキは二流のプレイヤーである自分自身にコンプレックスを抱き始めているのです。

シロエと出会い、シロエと行動を共にし仲間も増えたアカツキですが、周囲の人々の能力の高さと非力な自分、さらにはコミュニケーション能力の低い自分を比べて、自信を失い始めているのでした。

力が欲しい。そう願うアカツキは“口伝”を習得するべく足掻き始めます。その過程での彼女の葛藤や悩み、そして成長していく様は本書の最大の見所です。

ところで、読者はこの“口伝”がなんであるのかをすでに知っています

それは第4巻でシロエが見せたあの魔法に他なりません。 

 口伝とは<エルダー・テイル>におけるシステムを理解し、<大災害>の変化を超えたその先で、個人が努力によっていたるひとつの境地だ。それは些細な工夫でもあるし、修練の結果でもある。

出典:『ログ・ホライズン 6 夜明けの迷い子』p.287

たゆまぬ努力や些細なひらめきが生み出す無限の可能性、それが“口伝”の正体です。

この“口伝”が第2部からの『ログ・ホライズン』を象徴するシステムの一つだと思います。

第1部ではシロエの知謀やシステムの裏を斯いた策略が面白さの一つでした。それはオンラインゲームのシステムを熟知した上であの手この手で相手を翻弄する頭の柔軟性が生み出したものです。“口伝”とは、さらにそれらを発展させて新たなシステムすら作り出してしまう新たな可能性です。

“口伝”にはキャラクターの個性が強く現れます。なぜなら、誰かに教わって使えるようになるスキルではなく、個人の努力の末に生まれるからです。

例えばアカツキが本書で行使した“口伝”は、本来なら戦闘行為中は使用することが出来ないスキルを、自身の身体能力で再現して強引に戦闘中に発動させるというものでした。

スポーツや武道の世界などでは、『体が覚えていた』というようなことがよくあります。頭で考えるよりも体が先に反応していたというような瞬間です。アカツキがやったことはこれに近いことです。

普段から繰り返し修練していた動きを体が覚えたことで、戦闘中でもそれが出来るまでに自分自身を鍛えることに成功したのでした。

その努力は結果として謎の異世界のシステムから承認され、新たなひとつのスキル“影遁(シャドウ・ラーク)”としてアカツキの新たな力となったのです。もちろんこのスキルは、現時点でアカツキただ一人が使えるスキルなのです。

口伝を行使するアカツキ ログ・ホライズン 第6巻 284ページより

アカツキが手に入れた新しい力<影遁(シャドウ・ラーク)>
本来なら戦闘中には使用出来ない<隠行術(ハイド・シャドウ)>を体術で強引に発動し、他のスキルと組み合わせることで分身を作り出す移動方法。
これにより驚異的な回避能力をアカツキは身に付けた。
ログ・ホライズン 第6巻 284ページより

この“口伝”のシステムが従来のゲームにはない緊張感と無限の可能性を物語に与えます。

現に外伝の海外編では、“口伝”のシステムを利用して『防御職のキャラクターが、攻撃職のキャラクターを上回る攻撃力を発揮』したり、『たった一人で大規模戦闘のボスを撃破』したりしています。これらは従来のシステムからは考えられないことです。ゲームとしてのバランスを著しく欠いた状態です。

しかし、ゲームではない異世界と認識することが出来たからこそ、この“口伝”というシステムは当然の結果と言えるのではないでしょうか。個人の努力やひらめきが反映されるということは現実世界では当たり前のことです。

ゲームだからこそ、単純なレベルやステータスといった数値で推し量れるものさしが存在していました。しかしこの謎の異世界はもはやゲームではないのです。

今後の物語で“口伝”がもたらす可能性は無限大です。

間違いなく、元の世界への帰還方法にも絡んでくるはずです。

しかし、本書では“口伝”に留まらず、本当の強さに必要なものが描かれています。

ただがむしゃらに強さを求めていたアカツキが挫折をし、悩み、導き出せた答えこそ、“口伝”なんかでは計ることのできない本当の強さをアカツキに与えました。

本書で得たアカツキの“強さ”は一回りも二回りも彼女を大きく見せることでしょう。

人が成長する様を見ることはとても楽しいものです。

今後の物語がどう動いていくのかはまだまだ分かりませんが、本書で成長したアカツキたちであるならばどのような試練でも乗り越えていけるような、そんな気がしてなりません。