年末年始にゆっくり本を読もうかと思い、有川浩の『旅猫リポート』を購入しました。

前々から読もうと思っていたのですが時間がなくてほったらかしにしていた本です。せっかくの休みということで買って読んでみたのですが、これが本当にもうすさまじい破壊力でして、号泣しながら読んでしまいました。

涙が流れるような感動する物語は今までも数多く読んできましたが、ぼろぼろと涙が流れ号泣してしまったのは本書が初めてかもしれません。動物の感動的な話というのはどうしてこうも涙腺に来るのでしょうか。世界の七不思議です。 

それでは、今日は有川浩の作品『旅猫リポート』を紹介したいと思います。 

書籍情報

『旅猫リポート』は、2011年から2012年にかけて「週刊文春」に連載されていた有川浩の小説です。単行本は2012年の11月に発売され、第34回吉川英治文学新人賞、第26回山本周五郎賞候補作、第4回ブクログ大賞(小説部門)、第4回山田風太郎賞最終候補ノミネート作と、数々の評価を受けています。

また本書は、有川浩と阿部丈二による演劇ユニット「スカイロケット」によって舞台化されることを前提に書かれた小説です。舞台は2013年の4月に行われ、9月にはテレビで放送されたそうです。

 → 旅猫リポート - Wikipedia

 → 文藝春秋 『旅猫リポート』 特設サイト

 → 本の話WEB 『旅猫リポート』 舞台化に寄せて- 有川浩インタビュー

 → スカイロケット 公式サイト

私自身は舞台化のことはこの記事を書くまで知らず、まだ読んだことのない有川作品だなーっという程度の認識で本書を購入をしました。

確かに言われてみれば舞台を意識しているのか、物語の構成など他の有川作品とはやや違うのかもしれません。しかしだからといって作品の魅力や有川浩らしさが失われているわけではなく、相変わらずの読みやすさや感動的なストーリー展開はさすがと言えるところだと思います。

ストーリー

この物語はサトルと、サトルの飼い猫であるナナの二人旅を描いたものです。

猫のナナは元は野良猫でした。しかし交通事故をきっかけにサトルの飼い猫となり、5年もの期間を二人は共に暮らしてきました。二人の時間は幸せなものでしが、ある日サトルにはナナを手放さねばならない事情が出来てしまいます。

サトルはナナの引き取り手を探し、古くからの友人たちを訪ねながら旅を続けます。その旅の中で出会う友人たちとのエピソードを通じて、サトルとナナの関係性や人物像を描いていくのが本書の大まかなストーリー展開となります。

そして二人の旅の結末がどのような形で訪れるのか、それが『旅猫リポート』の物語です。

本書の特徴として、主人公のサトルの人物像は常に誰かからの視点で描かれていき、サトル本人の心情や独白が直接的に描かれることはないということがあげられます。猫のナナや友人たちの様々な視点からサトルが描かれることで、彼の人物像が読者にうまいこと伝わるような構成になっています。

『旅猫リポート』というタイトルにもある通り、猫のナナからの視点や友人たちの視点からサトルという主人公を捉えている物語というわけです。

とても印象に残ったシーン

Report-3.5 最後の旅』という、3章と4章の合間にあたるショートストーリーの部分があります。この中でサトルとナナが北海道を旅しているシーンで以下のようなナナの独白シーンがあります。

 道すがら、今まで見たことのない光景をたくさん見た。

 幹が真っ白い白樺や、真っ赤な実が鈴生りになったナナカマド。

 名前は全部サトルが教えてくれた。ナナカマドの実が真っ赤だということも。いつだったか、テレビに出ていた学者が「猫は赤い色を見分けるのが苦手」と言っていたのだけれど、

「うわぁ、ナナカマドの実が真っ赤だね!」

 サトルがそう声を上げたので、僕は「真っ赤」という色合いを知った。きっとサトルと僕では違って見えるんだろうけど、サトルの言う「真っ赤」が僕にとってどの色合いかは覚えた。

「あれはまだそんなに赤くないね」

 サトルはナナカマドを見かけるたびにそんなふうに批評する。だから僕はすっかり赤の見分けが得意になった。サトルにとっての赤の濃淡を自分の見え方で覚えただけだけど、同じ色を共有していることに変わりはない。僕はサトルの言ったいろんな赤を一生覚えておこう。

出典:『旅猫リポート』p.193

私はこのシーンで何かこみ上げてくるものがあり、泣いてしまいました。

物語は終盤に差し掛かるにつれて悲しみの色が強くなってきます。むしろ物語的には悲しみのにおいが強くなってくると表現した方がいいかもしれません。読者は予想できる結末に向けて、一行一行を噛みしめるように読み進めているところです。

そこに上の文章が出てくるわけです。

このシーンではサトルとナナの深い絆が描かれているのですが、それをを使って表現するところに有川浩のすごさを私は改めて感じました。本書に出会う前から有川浩の作品は大好きだったのですが、なんというか、このシーンはすごく衝撃的で印象に深く残ったのです。

ナナにとって、猫にとって、赤色というのは識別が出来ない色です。人間であるサトルとは見ている風景は同じであっても、その色合いは決して同じものではありません。ナナにとってはそもそも赤色という概念すら持ち合わせていないはずです。

だけれども、ナナはサトルへ絶対的な信頼を寄せ、彼の言う『真っ赤』というものを覚えようと、決して忘れないようにと、心へと刻みまっすぐに見つめています。そんなナナの心情と彼らの絆、そしてこれから訪れるであろう『最後の旅』を想像し、私は涙が止まらなかったのです。

このシーンは物語の中で最も印象に残っており、一番大好きなシーンです。

参考までに、ナナカマドの実とは以下のようなものです。ナナの目にはどのように映っていたのでしょうか。

 → ナナカマド – Wikipedia

真っ赤なナナカマドの実 Wikipediaより

真っ赤なナナカマドの実
Wikipediaより

最後に

陳腐な感想になってしまいますが、本書は本当に泣ける物語です。

サトルとナナ、人と猫の深い絆を描いた物語は純粋に美しく感動的です。また、物語の構成的に読者はサトルのことを少しずつ知らされることで、読み進めるごとに感情移入がしやすくなってしまうのかもしれません。少しずつ、少しずつ、感情が積み重なっていき、最終章ではついに決壊して涙が溢れてしまいました。

しかしながら、本書の本当に素晴らしいところはサトルとナナの幸福が溢れているところにあると思います。

物語の結末は感動的で悲しいものですが、彼ら二人の間で共有されていた幸福や絆は本当に幸せなものでありました。悲しみで泣きながらも、どこか笑顔が溢れてくるような、そんな物語であったと私は強く感じることが出来ました。

本書は素晴らしい物語でありとてもおすすめの一冊です。ただ、読むときは自宅とかで読むのがいいかもしれません。

電車の中で大泣きするわけにはいきませんからね。