本書はエイドリアン・ベジャン(Adrian Bejan)とJ・ペダー・ゼイン(J. Peder zane) によって書かれた『Design in Nature How the Constructal Law Governs Evolution in Biology, Physics, Technology, and Social Organization』の訳書です。

本屋さんの自然科学コーナーで平積みされていて何やらおすすめの新刊のようでした。表紙のデザインが素敵だったので思わず手にとってみたのですが、タイトルだけからは何について書かれた本なのかいまいちわかりません。

著者紹介や冒頭を立ち読みしてみたらなんだか興味をそそられたので、さっそく購入して読んでみました。

まあ一言で言って。

これは面白い本だった!

読み終わった後で本書について検索してみたら面白い記事がありました。

 → 「ビジネスブックマラソン」バックナンバーズ vol.3321

ビジネス書の書評を掲載しているWebサイトで本書について書かれた記事がありました。その中でこう書かれています。

仮に今年一年、一切の読書を禁じられたとして、その前に一冊だけ読みたい本を選べと言われたら、間違いなく本書を選びます。

出典:ビジネスブックマラソン」バックナンバーズ vol.3321

この評価には頷けるものがあります。

今年一年の中で読んだ本の中でも、この本は間違いなく名著です。むしろ、近い将来には古典と呼ばれうる本かもしれません。それほどまでに、この本で扱っているテーマやメッセージ性には革新性と強い可能性を感じました。

著者について

著者はエイドリアン・ベジャン(Adrian Bejan)。1948年ルーマニアに生まれ、マサチューセッツ工科大学で博士号を取得、カリフォルニア大学バークレー校研究員、コロラド大学准教授を経て1984年からデューク大学教授を務めています。現在はデューク大学の特別教授です。

Adrian Bejan の顔写真

Adrian Bejan の顔写真
デューク大学の公式HPより
http://www.mems.duke.edu/faculty/adrian-bejan

  → デューク大学 Adrian Bejan 紹介ページ

また彼は1999年に「マックス・ヤコブ賞」、2006年には「ルイコフメダル」を受賞、2002年には「世界で最も論文が引用されている工学系の学者100名」にも選ばれたそうです。ここで挙げられている「マックス・ヤコブ賞」と「ルイコフメダル」は熱工学分野におけるノーベル賞と言われているものであり、これらを同時に受賞している人物は少なく、文字通りエイドリアン・ベジャンは熱工学分野において歴史に名を残すほどの学者さんです。

本書を購読したひとつの要因はこの著書の履歴がすさまじいところにあります。

歴史に名を残すような世界トップレベルの学者さんが、『新たな物理法則』とまで言い切ってしまう内容が本書には書かれているわけです。これがそこらへんのよく分からない学者さんであれば、トンデモ本の類いかもしれないと身構えてしまうでしょうが、この著者であるならばすごく期待出来そうだと思ったのです。

と、この本の著者はもう一人います。それがJ・ペダー・ゼイン(J. Peder zane)です。

彼はセントオーガスティン・カレッジ准教授で、『The New York Times』などへ寄稿もしているジャーナリストです。

彼は出版や編集を仕事としている人物であり、本書の内容を一般読者にも分かりやすくするために協力した人物です。

つまり本書は世界的な学者であるエイドリアン・ベジャンの最新の研究が一般の読者にも分かりやすくするために、J・ペダー・ゼインと共に制作されたというわけです。

コンストラクタル法則(Constructal Law)とは

そんな世界的な学者さんであるエイドリアン・ベジャンが提唱する新たな物理法則というものが、コンストラクタル法則(Constructal Law)と呼ばれるものです。本書はこのコンストラクタル法則がどのようにして生まれ、またどのようなものなのかがまとめられている一冊となります。

では、一体コンストラクタル法則とはどのようなものなのでしょうか。ごくごく簡単にさわりの部分だけご紹介しようと思います。

コンストラクタル法則が指し示すものは以下のようにまとめられています。英語で書かれたものは下記のサイトから、日本語訳は本書からの抜粋です。

“For a finite-size flow system to persist in time (to survive) its configuration must evolve (morph) in time in such a way that it provides easier flow access.”

 

有限大の流動系が時の流れの中で存続する(生きる)ためには、その系の配置は、中を通過する流れを良くするように進化しなくてはならない。

出典:『http://www.mems.duke.edu/bejan-constructal-theory』及び『流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則』p11

 → デューク大学 コンストラクタル法則 紹介ページへ

上の説明がコンストラクタル法則を意味しているのですが、これが何を意味するのかはイマイチ分かりません。百聞は何とやらです。まずは下の画像を見てください。

左側は北シベリアのレナ川の航空写真 右側は人間の肺の画像 どちらも非常に似通った形をしている。

左側は北シベリアのレナ川の航空写真で、
右側は人間の肺を複製した画像です。
どちらも非常に似通った形をしています。
http://www.studio360.org/story/189672-constructal-law-a-theory-of-everything/ より

こちらの画像は「Studio 360」というサイト内でのコンストラクタル法則に関する記事に掲載されています。

 → Constructal Law: A Theory of Everything – Studio 360

この画像は本書の冒頭でも取り上げられていて、著者がコンストラクタル法則に気がついたきっかけの説明として使われているものです。

左側は北シベリアのレナ川の航空写真で右側は人間の肺を模したものの写真です。この二つの形がすごく似通っていることがすぐに分かると思います。ですが片方は大地の形というとても大きなものであり、片方は人間の体の中というとても小さなものです。さらに片方は地形という生命ではないものに対して、片方は生命であるというように、この二つにはあまり共通点がないように思われます。

自然界では時折、不思議なほどに一致する形が見られることは以前から知られていました。しかしその理由は分かっておらず、これらはあくまで偶然の一致だと考えられていたのです。事実、ノーベル化学賞受賞者のイリヤ・プリゴジンもこれは「アレアトワール(サイコロを振った結果)」だと断言しました。

しかし、イリヤ・プリゴジンのこの言葉に疑問を抱いたのが本書の著者であるエイドリアン・ベジャンなのです。

それを聞いた瞬間、頭の中で閃くものがあった。私ははっと気づいた。プリゴジンも、他の誰も彼もが間違っている! 彼らは目が見えないわけではなかった。こうした樹上構造のものどうしの類似は、肉眼でもはっきり見て取れる。彼らに見えなかったのは、こうした多様な事象のデザインを支配する科学の原理だ。私は一瞬にして悟った。世界は偶然や巡り合わせや運によって形作られているのではなく、目がくらむような多様性の背後には予測可能なパターンの途切れない流れがあるのだ、と。

出典:『流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則』p9,10

彼がこのことを閃いたのが1995年のことでした。そして翌1996年にコンストラクタル法則を提唱しています。そしてコンストラクト法則を用いることで、上の写真がただの偶然ではなくきちんとした法則性を持って似たような形になっていると著者は断言するのです。

とどのつまりコンストラクタル法則って何?

結局のところコンストラクタル法則が何を意味しているかと言うと、進化の方向性が予測出来るという点に尽きます。

それにはまず、物事の全ては流動系であるという考え方から始まります。先の二つの画像を例にしてみると、川というものは水が流れている流動系で、肺というものは空気が流れている流動系となります。そしてそれぞれ「水を運ぶための系」と「空気を運ぶための系」と考え、どのような形であれば最も効率よく中身を運ぶことが出来るのかと考えるのです。

そしてその予測を物理や数学などを駆使して計算すると、効率が最適化された形(デザイン)が見えてきます。すると「水を運ぶための系」と「空気を運ぶための系」は両方とも写真にあるような樹上構造の形になるのです。ゆえにこの二つが似たような形になるのは偶然でも奇跡でも何でもなく、予測されうる形として計算出来てしまうのです。

このコンストラクタル法則の面白い点は全てを流動系としてモデル化してしまうので、あらゆる分野に適用出来てしまうところにあります。上の例のように生命と非生命の比較も可能ですし、歴史や社会制度、スポーツに都市計画まで、あらゆる分野に適用出来ます。

例えば本書の中で著者は、なぜスポーツにおける短距離走の世界選手権で優勝するのは黒人ばかりで、逆に水泳では白人が優勝するのかをコンストラクタル法則を用いて説明しています。これはそれぞれ、地面の上を人間が移動するという流動系と、水中を泳いで移動するという流動系として捉え、どのような身体構造であれば効率を最適化することが出来るのかと考えます。するとそれぞれにとっての最適な人間の身体構造が予測され、現実においては短距離走では黒人が、そして水泳では白人の身体構造がそれぞれ最も適した形になっているというわけです。

他にもなぜ鳥や魚は今のような形をしているのか、都市の分布や道路の配置、黄金比の説明など、様々な実例を元にコンストラクタル法則を解説していきます。その展開が本当に幅広く、読んでいて飽きが来ない充実ぶりです。

より詳しいことは本書を読んでもらうとして、コンストラクタル法則というものは何か数式のような単純なもので与えられる理論ではありません。これはあくまで新たな物事の捉え方、そしてそこから導き出される最適解を予測するための理論なのです。 

この考え方は非常に使える!

エイドリアン・ベジャンの提唱したコンストラクタル法則は、例えばアインシュタインの相対性理論のような世界的な承認と認知を得られているわけではありません。徐々に科学者たちの間でも話題になり注目を集めてきているようですが、未だこの理論は検証と議論の最中にあり今後の動向が注目されている立場です。

私自身、お偉い学者さんでも何でもありませんので、コンストラクタル法則が正しいのか正しくないのかなんて知るよしもありません。ただ、本書を読んだ“直感”的には、この法則は正しいのではないかと思っています。

また、仮に正しくないとしても、このコンストラクタル法則の考え方は“使える考え方”であると思いました。法則が自然界における第一原則であろうとなかろうと、この考え方は非常に使えそうだと感じたのです。

この記事の冒頭でも紹介しましたが本書は自然科学の枠内だけではなく、ビジネス書として高い評価を受けてもいます。とどのつまり、著者が言うようにこの考え方は何も自然科学だけにとどまらず、実社会やビジネス、コミュニケーション、それこそ日々の生活の中ですら活用出来そうな可能性を持っているのです。

このコンストラクタル法則の考え方はあらゆる分野に応用出来そうです。その可能性を切に感じたからこそ、私は本書を高く評価しています。この本は一読の価値が十二分にある。

これから先、コンストラクタル法則がどのような評価を受けていくのか非常に楽しみです。

もしからしたら数年後、あるいは数十年後、数百年後、このコンストラクタル法則が教科書に掲載され人類普遍の知識として共有化される未来が訪れるのかもしれません。

コンストラクタル法則が当たり前の知識として活用される社会。ちょっと想像が難しいですが、エイドリアン・ベジャンに言わせれば「それすらもコンストラクタル法則は予測することが出来る」とでもなるのかもしれません。