その本の物語 下巻】も読み終わりましたので感想を書いていこうと思います。【上巻】もすでに記事にしていますのでよろしければそちらもご覧ください。

→ 【読書感想・紹介】 その本の物語 上巻 2014-07-18

私は【上巻】を読んだ際、まるで【風の丘のルルー】を読んでいるようだと感じました。この物語は【風の丘のルルー】の再構成ですから当然と言えば当然ですが、それを強く感じさせた要因に主人公【南波】の影の薄さが挙げられます。

病院の白いベッドの上で眠り続ける沙綾のために南波は【風の丘のルルー】の朗読を続けています。しかし、【上巻】における南波の描写は極めて限定的で抽象的です。なんとなく南波と沙綾の間に何が起きたのかは想像出来ますが肝心の部分はまだ描かれていません。

それでも、間違いなく【その本の物語】の主人公は南波です。

この【下巻】では南波の描写がこれでもかこれでもかと描かれていきます。彼女の激しい後悔、言葉に出来ないくやしさ、そして垣間見える彼女の強さ、次々と押し寄せる感情の波に私は胸が押しつぶされるような思いでした。

【下巻】を読んでいる最中に一体何度泣かされたことか。千鶴先生と南波の会話は特に印象的で終始号泣してました。だってねえ、泣くなって方が無理だ。あれは。

【その本の物語 下巻】のあらすじ

「春に、最初にこの病室でみかけた時の南波ちゃんは、今とは違う女の子みたいだった。泣きはらした真っ赤な目をして、沙綾ちゃんのことだけを見つめてた。背中を丸くして自分の指をかんでた。わたしが話しかけてもその声が届かなかった。とても気になって、沙綾ちゃんのお父様から、あなたのことをきいたの。ああ、この子は生きてるけど、もう死に始めてるんだな、と思った。強い後悔の念は心を責め苛み、殺してしまいそうになるものだから。----そういう意味では、ずっと目覚めないけど、力強く心臓が鼓動を打っている、笑顔で眠っている沙綾ちゃんの方が元気な女の子みたいに見えて、不思議だなあ、このふたりは、と思った」

出典:【その本の物語 下巻】p.172

春が過ぎ、夏を迎える季節になっても、南波は沙綾の隣で【風の丘のルルー】の朗読を続けていました。新しいバイトにも慣れて南波の生活には少しずつ変化の兆しが見え始めるも、ベッドに眠る沙綾の姿はあの日から何も変わることがありませんでした。

南波は朗読を続けながらあの日のことを思い出します。あの日にどうして自分は約束を守れなかったのだろうか、あの日にどうして自分は沙綾を守ってあげられなかったのだろうか、あの日の自分に、なぜほんの少しの勇気がなかったのか……。

子供の頃、沙綾と一緒に読んだ【風の丘のルルー】という物語。主人公の魔女の子ルルーは人間からは忌み嫌われる存在でした。人間とは違う魔女、不思議な力を使う魔女、魔女であることだけで人間から嫌われる女の子。それでもなお、ルルーは人間と仲良くなることを望み、人間のためにその力を尽くしました。

南波はそんなルルーのことが大好きで、誰よりも友達になりたいと思っていました。たとえ世界中から嫌われようともルルーを守れる勇気があると自分を信じていました。しかし、現実には沙綾を守れる勇気すら持てなかった自分の弱さに、南波は気がついてしまったのです。

南波の心身を苛む後悔の念は悪夢となり、南波を苦しめます。そんな南波に【本の朗読】を勧めたのは沙綾の担当医である千鶴先生でした。沙綾の目覚めを助けるだけでなく、南波の心を救う魔法になるだろうと……。

南波の物語

この物語は【風の丘のルルー】の再構成ですのでルルーの物語が大きな比重を占めています。しかし、やはり主人公は朗読を続けている【南波】に他ならず、この物語は彼女のための物語です。

そのことを確認するかのように、この【下巻】で物語の焦点は南波へと大きく移っていくことになります。【上巻】ではややぼかされていた南波の描写が次々と描かれ、物語はクライマックスへと向かっていくのです。ある程度の内容は予想していたものの、いざそれが目の前に現れるとぐいぐいと惹きつけられるものがありました。

すでに【上巻】でも描かれていますが、沙綾が目を覚まさない理由は南波にあります。南波が何らかの約束を守らなかったがために沙綾は身体を壊して入院し、そのまま眠り続けているのです。南波は千鶴先生に勧められて本の朗読を続けますが、それは医者に勧められた行為である以上に、南波自身が抱える罪滅ぼしの行為に他なりません。沙綾に謝るために、想いを伝えるために、来る日も来る日も物語を声に出して南波は読み上げます。

そしてこの【下巻】において、南波と沙綾の間に何があったのかが全て明かされます。その事実を前に、南波の苦しみがいかほどだったのか想像するだけで胸が張り裂けそうな思いでした。あの日、南波に起きた出来事に深い悲しみを覚えずにはいられません。しかし、南波は気丈にも朗読を続けます。

その姿を見るだけで私は涙が止まりません。南波自身も時には泣きながら、時には涙を堪えて、そして笑顔で、【風の丘のルルー】を読み続けます。その行為は沙綾への罪滅ぼしでありながら、南波自身が救われるために必要な行為でもあったのです。

千鶴先生が南波に本の朗読を勧めたのは沙綾を目覚めさせるためという理由付けでしたが、本当のところは、何よりも南波を救うためでもありました。

【上巻】では【眠り続ける沙綾のための朗読】として【風の丘のルルー】が描かれていましたが、この【下巻】で方向性は大きく変わります。南波が来る日も来る日も続けていた本の朗読は、その長い期間の中で少しずつ、南波自身を救う結果になっていきました。もちろん、南波はこのことにこれっぽっちも気がついていません。そのことを千鶴先生に明かされるシーンに、私は涙が本当に止まりませんでした。

【風の丘のルルー】を読んで育ち、その世界に憧れて、ルルーの友達になることを夢見て、魔法も現実も全てがリアルに存在していたあの頃から、南波は大人になりました。大人になることで現実を知り、あの頃の自分とは違う今の姿に南波は悲しみを覚えます。そして沙綾の不幸も重なったことでひどく傷つけられてしまうのですが、その傷を癒やすのもまた、あの頃に好きだった【風の丘のルルー】でした。

魔法は確かにありました。

物語の中に、胸に秘めた想いの中に、紡がれた言葉の中に……。世界はいつだって、魔法と奇跡に満ちていました。それがラストには……、物語の結末は、是非実際に読んでみてください。

【その本の物語 下巻】を読んだ感想

この【下巻】ではとにもかくにも、南波と千鶴先生の会話がすごく印象的でした。

二人の会話のシーンではずっと感動のあまり泣きっぱなしの有様です。南波は常に自分の弱さを嘆いて過ちを悔いていますが、千鶴先生の言うようにとても強く、そして本当に優しい子だと思います。南波が断ち切ってしまった沙綾との関係を、南波はあの頃に一緒に読んだ【風の丘のルルー】の朗読を通じて取り戻すことが出来たのです。それは簡単に見えて、とてつもなく困難なことだったのではないでしょうか。それこそ本当の魔法のように、ひとつの奇跡だったように私には思えます。

そしてこの【その本の物語】では南波の想いがあるからこそ、【風の丘のルルー】の物語に味わい深さが生まれています。【風の丘のルルー】はそれ単体でも成立している物語です。そこに南波の朗読の言葉と想いが重なることで、南波は一体何を想いながらこの物語を読んでいるのだろうかと常に考えてしまいます。二重の意味で本当に面白い物語でした。

世界はいつだって、魔法と奇跡に満ちている----。つくづくと、本書を読んでいて私もそう思いました。物語の持つ輝きに、ほんの些細な出来事に、言葉で奏でられる願いの中に、本当にいつだって魔法と奇跡は満ちあふれているのでしょう。そのことに気がつけた、南波はもう大丈夫なはずです。

本書を読み終わったときに、沙綾と共にどこまでも歩いていける南波の姿が、私は見えた気がしました。

【その本の物語】を読んで

風の丘のルルーが読みたい!

この物語を読んだ誰もが、こう感じたのではないでしょうか。読みたい! 読みたい!! 読みたい!!!

特に私は【風の丘のルルー】を読まずに育ちました。かつてルルーを読んだ子供たちがこの物語に出会った感動はいかほどなのか、【上巻】の感想にも書きましたが私はうらやましくてしょうがないという思いです。ですが【その本の物語】を通して、私もルルーに出会いました。ならば、【風の丘のルルー】も読んでみたいという思いは当然沸き上がってきますし、かつてルルーの友達だった人ならばもう一度会いたいと思うのではないでしょうか。

だがしかし、風の丘のルルーは大絶賛絶版中である。なんと!

重版とかしないのかな……|ω・`)チラッ

むしろ文庫とか単行本の新装版とかないのかな……|ω・`)チラッ

ポプラ社…様……|ω・`)チラッ

ひとまず、ルルーを探して図書館とか古本屋でも旅してみようかな。きっと出会えるさ。