先日購入した【ペナンブラ氏の24時間書店】を読み終わりましたので感想など書いていこうと思います。本屋さんをぶらぶらしていたときに目に入り、かわいい表紙イラストと書店を舞台にした物語らしいということで買いましたが、なかなか面白くて夢中で読んでしまいました。

一風変わった書店を舞台に500年越しの謎を解き明かすとあらすじに書かれており、てっきり古書店で繰り広げられるアナログ的な物語かと思っていました。しかし実際に読み始めてみると、物語は私の予想を超えてダイナミックに展開していきワクワクした感情はどんどんと膨れあがっていきました。

物語に散りばめられたネタは古典的でありながらも最先端で、またミステリーでありながらもファンタジーです。過去から未来へと、想像から現実へと、人々の想いが交錯していく物語は【おもしろい】の一言でした。感動や衝撃よりも、とにかく読んでいて【ワクワクと楽しかった】というのがこの本に対する私の一番の感想です。

この本はどんな本?

本書の著者は【ロビン・スローン(Robin Sloan)】、翻訳は【島村浩子】です。2012年にアメリカで発売された小説で、日本では2014年4月に翻訳本が発売されました。【San Francisco Chronicle】で2012年のベストブック100冊に選ばれたり、【New York Times】の編集者の選ぶ本に選出されたりと大きく話題になった本です。原題は【Mr.Penumbra’s 24-Hour Bookstore】。

ところで本書の著者ロビン・スローンですが、なんとなく以前どこかで聞いたことがある名前のような気がしていました。それも本書を手に取った理由の一つですが、巻末の著者紹介を見て納得です。彼は【EPIC 2014】を製作した人物だったのです。

この動画は情報化社会の行く末を予想したものとして一時期話題になりました。公開されたのは今からちょうど10年前の2004年です。今にしてみると実に興味深い内容ではないでしょうか。未見の方は一度くらい見てみることをおすすめします。

本書はスローンの初の小説作品となります。しかし上記の動画からもうかがえるように彼は極めて独創的で創造的な人物です。本書も初めての小説とは思えないほどにしっかりと書かれていて期待を裏切ることはありません。物語の構成からキャラクターの造形まで実に素晴らしいものでした。

そして本書は何よりも【技術】に関する話題が豊富で、特に【Web】に関しての設定はかなり奥深く興味深いものばかりです。この物語は技術の歴史や進展に焦点を当てて描いたものであり、そこに込められた人々の想いを一冊の書籍を通して構築したものです。

古書店に眠る本のにおいを想像して本書を読み始めた私でしたが、数々の展開には驚かされ興奮が冷めることはありませんでした。本に込められた確かな愛を、私はこの物語から鮮明に感じることが出来たのです。

→ Robin Sloan の公式サイトへ

あらすじ

ベーグル屋でデザイナーとして働いていた【クレア・ジャノン】は不況のあおりを受けて職を失ってしまいます。仕事を探し始めるもなかなか希望の職は見つからず、最後にたどり着いたのは一軒の不思議な書店でした。

クレアの訪れた書店【Mr.Penumbra’s 24-Hour Bookstore】はサンフランシスコの中心街からは離れたところにあり、その店内は異様に細長く、書棚は天高く3階分あたりまでそびえ立っていました。クレアは藁にもすがる思いで【ペナンブラ氏の24時間書店】の夜勤店員として働き始めます。

店長である【ペナンブラ】はクレアが書店員として働くには3つのルールを守らねばならないと説明します。

一つ、午後十時から午前六時のあいだずっと書店にいること。遅刻も早退も認められない。

一つ、棚にはいっている本を読んではいけない。訪れる客の望む本を渡すことだけが仕事。

一つ、訪れた客とのやりとりをすべて業務日誌に記録すること。時刻、様子、服装、どの本を要求したか、あらゆる全てを。

【ペナンブラ氏の24時間書店】は不思議な書店でした。お客はほとんど訪れず、本の売り上げもほとんどありません。しかし、時折妙なお客がやってきては奥にある書棚から本を借りていきます。クレアの仕事の大半は、この奇妙なお客のために本を探しそれを業務日誌に記録することでした。

書店の入り口近くには一般的な本が置いてあるのですが、奥の書棚に置いてある本は全く見たことのないものばかりでした。クレアはタイトルをGoogleで検索しますが有効な検索結果は何も得られません。データには存在しない本とは一体何なのか、この本を借りていく人たちの目的は何なのか、クレアは次第に好奇心を抑えきれずに謎解きを始めていきます。

そしてこの書店に隠された秘密をクレアは解き明かしてしまいます。しかし、それは500年にも及ぶ壮大な物語のスタートラインでしかありませんでした。

クレアは信頼する仲間たちと共に、この最難関のクエストへ挑むことを決意するのでした。

感想

先述した通り、これは本当にワクワクする物語でした。

奥の書棚に置いてある本には秘密の暗号が隠されており、【ペナンブラ氏の24時間書店】に来店する奇妙な客たちはこの謎を解き明かそうとしています。クレアもそのことに気がつき友人の【ニール・シャー】に相談をするのですが、そのときの二人の会話がちょっと面白いです。

「うーんと、暗号かどうか確かじゃないんだ」ぼくは白状する。本を閉じ、棚に戻す。「それに、たとえ暗号だったとしても、なんていうか、解くだけの価値があるかどうかわからない。ここの本を借りていく人たちはかなり変わっているんだ」

「始まりはいつもそうだろ!」ニールはぼくの肩をバシンと叩く。「『ドラゴンソング年代記』を思い出してみろよ。半純血(ハーフブラッド)のテレマクは最初のページに出てくるか? いいや。出てくるのはファーンウェンだ」

『ドラゴンソング年代記』の主人公は学のあるこびと(ドワーフ)ファーンウェンだ。ドワーフの標準から言っても小さいくらいで、若いうちに戦士失格を宣言され----というのはさておき、うん、ニールの言うことには一理ある。

「この謎は解かないとな」と彼は言う。

出典:【ペナンブラ氏の24時間書店】p.44

ニールは小学生の頃から愛読しているファンタジー小説を例に出し、かつて憧れ、そして夢を見た世界が今目の前にあることに好奇心を抑えられません。不思議な古書店に並ぶ暗号化された本、世間にはその存在を知られず、奇妙な客だけが日夜訪れては何かを企んでいます。こんなにワクワクすることはありません。ニールの言うとおり、始まりはいつもちいさなきっかけです。

クレアとニールは愛読書の『ドラゴンソング年代記』を通じて知り合った友達です。彼らは自分たちを物語の登場人物に見立てて物事を考えることがあり、これがRPG仕立てになっていて物語に華を添えてくれます。彼らの遊び心がすごく愉快で楽しく、読んでいて面白い気分にしてくれるのです。大人でありながらも、まるで小学生みたいな二人です。

クレアは友人たちの協力を得て書店に隠された秘密を解き明かそうとしていきます。その友人の中にはGoogle社員の女性がいました。【キャット・ポテンテ】、彼女こそこの物語における重要なキーパーソンです。

クレアの始めた謎解きは次第に多くの人々を巻き込み、Googleの巨大プロジェクトとして動き始めます。それだけの価値があると人々は結論を出し、クレアに協力をしていくのです。この物語が大きく広がっていく過程がとにかくワクワクする面白さです。古書店に隠された古い秘密に技術の最先端を走るGoogleが挑む、それだけでワクワクは止まりません。

暗号に関わる秘密結社の存在、Googleの最先端の技術、人々の繋がり、それらがうまく組み合わさり物語は一冊の本を中心に大きく回り始めていきます。その中で【古いもの】と【新しいもの】に焦点が当てられているのがこの物語の大きな魅力です。過去と現在、特にテクノロジーに関する話題が多いですが、どちらもリスペクトに溢れていて深い愛情を感じられます。どちらが良い、どちらが悪いという話ではなく、いずれであってもそこに人々の想いや願いが注ぎ込まれていたことに何ら変わりはありません。

私が当初想像した物語とはだいぶ違った内容でしたが想像以上に楽しむことが出来ました。常にワクワクしながら読めましたし、読み終わった後には『こんな物語が読みたかった!』とすごくうれしい気分になりました。本を巡る物語は本当に面白く、それは本を書いた人の想いや本を読んだ人の感動だけでなく、過去から未来へと続く人々の営みが垣間見えるからなのだと私は思っています。

500年前の想いが込められた一冊の本を前にして、クレアの感動はいかほどだったのでしょうか。そのことに思いを馳せるに、つくづくとこの本を読めて良かったと思います。

最後に

下記に抜粋する文章はこの作品のエピローグに描かれているものです。私は、この文章がこの作品の中で一番美しいと思いました。

この作品は終始クレアの1人称視点で描かれています。クレアが語り部であり、この物語はクレアの物語です。最後まで読んだ方は分かると思いますが、この文章には物語の全てが込められています。これだけ簡潔に、そして美しくまとめられた文章はそう読めるものではないでしょう。私はそう感じました。

 あなたはこの本を手に、ぼくが学んだことをすべて、ぼくと一緒に学んでいくだろう----

 不死はかならず友情と努力の上に入念に築かれるものだ。知る価値があるこの世の秘密はすべて、ありふれた風景のなかに隠れている。三階の高さがある梯子をのぼるには四十一秒かかる。三〇一二年を想像するのは簡単じゃないけど、だからって試してみちゃいけないってことにはならない。ぼくたちは新しい可能性を手に入れた----まだ使い慣れていない不思議な力。山々はウィルムの父祖、アルドラグからのメッセージだ。人生はいろんなところから気ままにはいっていける、ひらかれた街でなければならない。

出典:【ペナンブラ氏の24時間書店】p.336

どうでもいい疑問がひとつ

本書の巻末に米光一成氏による解説が載っています。その中に下記のような文章があります。

 クレイの表現を真似るなら、パーティーのメンバーは、ならず者(ローグ)クレイ、魔法使い(ウィザード)キャット・ポテンテ、賢者ペナンブラ、盗賊(シーフ)ニール・シャーってところか。

出典:【ペナンブラ氏の24時間書店】p.341

ここの解説でなぜニールが【盗賊】なのかが分かりません。本文では以下のようになっています。

「それに」とぼく。「ぼくはこのシナリオのならず者(ローグ)だ」

 キャットが片方の眉をつりあげたので、ぼくは低い声で説明する。「ニールが戦士(ウォリアー)、きみが魔法使い(ウィザード)、ぼくがローグだ。この会話については忘れてくれ」

出典:【ペナンブラ氏の24時間書店】p.188

ニールは【戦士】として描かれています。

どこかでジョブチェンジするイベントでもあったっけ? 物語を読み終わり解説を読んでいたら頭に?マークが浮かんでしまいました。解説文は未読の人を対象に書かれたみたいで、読後に読む文章ではないなと感じてしまいました。