【アニメ感想・紹介】 灰羽連盟

 アニメ 

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 私が一番好きなアニメは『灰羽連盟』という作品です。

 

 リアルタイムで視聴することは出来なかったのですが、大人になってからネットでの評判を知って見ることが出来ました。

 しかし、ネットでの評判というのは決して大それたものではありません。『灰羽連盟』は大ヒットを飛ばした作品でもなければ、誰もが知っている人気作というわけでもありませんでした。

 

 なぜそんな作品を見る気が起きたのかというと、感想を述べている人々の評価がやたらと高かったのが要因です。あまりメディアに露出もせず、関連作品も少なく、どちらかと言えば“視聴者は少ない”部類に入る作品なのですが、視聴した人々は口を揃えて『素晴らしいアニメだった』と言うのです。

 ですから、はじめはたんなる好奇心からこの作品を見ました。一体このアニメのどこがすごいのか、なぜ人々が絶賛しているのか、それが気になってしまったのです。

 

 

 結果として

 

 この『灰羽連盟』という作品は私の中で最高傑作のアニメの地位を築きました。この作品が私の人生に与えた影響は決して少なくはありません。最も好きなアニメ作品を一つ選ぶのであれば、間違いなく私はこの作品を選びます。即答で。

 ですから私も、多くの先人たちと同様に『このアニメは素晴らしかった』、そう言いたいと思うのです。

 

 

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作品情報

 

 灰羽連盟(はいばねれんめい)は安倍吉俊(あべ よしとし)が描いた同人誌『オールドホームの灰羽達』を原作とし、TVアニメに再構成されたものです。2002年放映で全13話。

 

 放映当時、フジテレビの深夜放送枠のスケジュールは混迷していました。地デジ移行のごたごたなどでトラブルが続き、その影響で番組の放送中止や予定変更が頻繁に起きていたのです。

 2002年10月9日に放映が始まるも、灰羽連盟もトラブルの影響を受けて1日に2話連続で放映されることが4回もありました。当然アニメ製作のスケジュールは厳しくなったでしょうし、放映期間自体も短くなってしまいました。

 最終話は12月18日の放映でしたので実質的に灰羽連盟が放映されたのはたったの2ヶ月だけです。さらに同時期には『NARUTO -ナルト-』や『機動戦士ガンダムSEED』などのビッグタイトルも相次いで放映されていて、この灰羽連盟は一般的には埋もれてしまった作品であると言っていいと思います。

 

 しかし、この作品を見れた幸運な人々の間には強い印象と衝撃を与え、その評価は口コミやネットで静かに広がっていきました。そしてその評価は非常に高く、評論家の方でも00年代を代表するアニメ作品にこの灰羽連盟をあげる方もいるほどです。

 2010年には実に8年越しにBlu-ray BOXが期間限定発売され、同年のユリイカでは特集が組まれました。

 

 

 

 

 物語は主人公の少女が不思議な夢を見ているところから始まります。

 不思議と恐怖感はない中、定規で引いた線のようにまっすぐと空を落ちていく夢です。

 少女が目を覚ますと、そこは見覚えのない街で見覚えのない人々に囲まれていました。そして少女自身、自分の名前や過去のことを何一つとして覚えていなかったのです。しかしただ一つ、不思議な夢のことだけはうっすらと覚えていました。

 レキと名乗る女性は少女から夢の話を聞き、少女に空を落ちる意味である『ラッカ(落下)』という名前を授けます。“灰羽”は皆、夢で見た情景を元に名前を付けるのだと彼女は言いました。 

 この物語はグリの街で暮らす“灰羽”たちの、切なくとも苦しくとも、しかし美しく優しい、不思議な物語です。

 

 

 


 

 

 

 

ストーリー

 

 物語の序盤は『ラッカ』を通して灰羽たちの暮らす不思議な世界を描いていきます。

 街に暮らす灰羽たちは頭上に光輪を掲げ、背中には美しい灰色の羽が生えています。炭のような黒い灰色ではなく、燃え尽きた炭のように限りなく白に近い灰色です。

 

 

主人公のラッカ 第1話より

灰羽連盟の主人公“ラッカ”
彼女を通してグリの街や灰羽について語られていく
第1話より


 

 灰羽は目覚める前のことを何も覚えていません。言葉や生活上の知識はあるものの、自分の名前や暮らしていた街、家族や友人のことは一切覚えていないのでした。ただし、目覚める前に見ていた夢の内容だけは不思議と覚えていて、その夢だけが何かを指し示す鍵となっています。

 灰羽はその夢を元に、この不思議な世界での新しい名前を授かるのです。

 

 灰羽たちが暮らす街は『グリの街』と呼ばれ、周囲を高い壁に囲まれています。灰羽以外にもたくさんの人々が暮らしているのですが、人々は決して壁を越えることは許されず誰一人として壁の外に何があるのか知る者はいません。ただ鳥だけが壁の外へと行くことが出来る存在です。

 

 序盤は登場キャラクターや街の描写にじっくりと時間をかけています。物語に大きな変化は訪れず、ただただ平和で静かな時間が過ぎていきます。

 淡々と描かれる物語に退屈を感じてしまう人もいるかもしれませんが、序盤にしっかりと丁寧な描写があるからこそ物語に厚みが生まれ、後半の怒涛の展開を支えることが出来ていると思います。

 

 

 ストーリーは中盤からこれまでの幸せで平和な情景から一転し始めます。

 きっかけは灰羽の一人である『クウ』の旅立ちでした。

 

 灰羽たちの間では、壁を越える準備が出来た灰羽は街の祝福を受けてある日壁の向こうへと“巣立つ”という言い伝えがありました。クウはある日突然消えてしまったのです。 

 仲間たちはクウの旅立ちを悲しみながらも祝福するのですが、ラッカだけはクウの旅立ちを受け容れることが出来ずに深く落ち込んでしまいます。そして、そんなラッカに異変が訪れます。

 

 それまできれいな灰色だった羽に突如として黒い染みのようなものが現れ、少しずつ羽を黒く染めていくのでした。ラッカは誰にも相談が出来ずにますます塞ぎ込み、病気なのかと思い悩んでいきます。この辺りのシーンはとても痛々しく、序盤までの平和な世界がまるで嘘のような描写の数々です。

  

 ラッカの異変に気がついたレキは特別な薬をラッカに渡します。ラッカはなぜレキがそんなものを持っているのかを問い、レキは自分が“罪憑き”であることを明かしました。

 良い灰羽はいつの日か街の祝福を受けて旅立ちの日を迎えますが、ごく稀に祝福を受けることが出来ずに旅立てない灰羽がいるのだとレキは言います。そのような灰羽は永遠に街に囚われ、その羽は黒く染まっていくのです。

 そのような灰羽を“罪憑き(つみつき)”と呼びます。

 

 ラッカはレキが罪憑きであることを知り、同時に自分も罪憑きであることを知ってしまったのです。この辺りから物語はレキへとその中心を移し始めていきます。罪憑きという存在を通してラッカやレキの精神的な問題が描かれ、物語は本質的な部分へと踏み込んでいくことになります。

 

 物語の序盤こそ主人公はラッカですが、全体を通しての“真の主人公”は間違いなくレキです。

 この灰羽連盟というアニメはレキのための物語であり、彼女の救済こそが軸となっています。

 

 

 

灰羽連盟の真の主人公“レキ” 第1話より

ラッカの誕生からずっと世話をしてくれた年長の灰羽“レキ”
皆の良きリーダーであり、小さな子供たちの面倒も見ている。
灰羽連盟の“真の主人公”であり、この物語はレキのための物語。


 

 

 

 

アニメの見所

 

 灰羽連盟はおおよそアニメで高い評価を受けるであろうアクションやキャラクターとは無縁のアニメです。登場する人物たちは絶世の美女でもなければ、何か特別な試練を課せられた人でも、不思議な能力を持つ人でもありません。どこの街にもいるような、何の変哲も無い、ごくごく普通の人々です。

 独特の色彩など評価される点はあるものの、放映当時の迷走した日程の影響もあり作画なども特別優れたものではありません。不安定な作画のシーンも存在し、むしろ厳しい日程の中でよくここまで仕上げることが出来たと考えるべきだと思います。

 

 灰羽連盟で特筆されるべきはその独特の世界観です。

 序盤こそ幸せな情景や楽園のような世界が描かれていきますが、罪憑きの登場を境に物語は少女たちの内面へと深く入り込んでいきます。 

 私はずっとこの街は楽園なのだと思っていた 

 でも

 皆こんなにも優しく

 誰かのために精一杯生きているのに

 悲しいことは起こる

 呪いを受け苦しむ者もいる

 灰羽ってなんだろう

 これは第7話でのラッカのセリフですが、この言葉はそっくりそのまま視聴者の言葉になります。

 

 灰羽とは何なのか?

 グリの街とは何なのか?

 壁の外には何があるのか?

 罪憑きとは何なのか?

 

 これらの疑問について考えることが灰羽連盟というアニメの醍醐味であり、この不思議な世界をどう捉えていくのかが肝になります。

 

 しかし、作中では何一つとして明確な解答が得られることはありません

 

 登場人物たちはもちろん、原作者や製作者による裏話としても明確な解答は存在していないのです。アニメの設定資料集なども発売されておらず、全ては登場人物たちの感情や言葉の端々から想像をし、自分自身の中で物語に“意味”を持たせてやる必要があります。

 

 この構成は見る者を選びます。

 

 疑問に対して解答が得られないことを『説明不足でつまらない』と思う人もいるはずです。灰羽連盟が評価される最大の美点となる部分が、最大の欠点にもなってしまう恐れがあるのです。

 視聴者に投げっぱなしの設定と言ってしまえばそれまでですが、根底としては『明言する必要がない』というのが作品としてのスタンスでしょう。物語の中で誰一人としてこれらの疑問に答えることが出来ない以上、作品の中で答えを提示する必要はないのです。

 

 そうではあっても、想像を働かせることは十分に出来るストーリーとなっています。しかし、その内容は決して生易しいものではありません。切なく、苦しく、痛みを伴って心に重く圧し掛かってくるような内容ばかりです。

 けれども、登場人物たちはそんな世界の中でも懸命につながりを求めて生を全うしていきます。彼女たちが探し求めそして手に入れたひとつひとつの絆や思いは、かけがえの無いものばかりで強く心を打たれてしまうのです。

 

 派手なアクションシーンも、劇的な恋愛も、胸躍る冒険活劇も、この灰羽連盟には存在しません。グリの街という不思議な世界を舞台に灰羽たちの心の動きを描いた、どこまでもどこまでも静かで精神的な物語です。

 人の心の動きだけでここまでの作品を描き出したことこそ、灰羽連盟が絶賛される所以であり、だからこそ圧倒的なリアリティを持って視聴者に強い印象と衝撃を残します。特別な宿命を与えられた人の葛藤ではなく、どこにでもいる普通の人が持ちえる葛藤だからこそ我々の心を打つのです。

 

 後にも先にも、登場人物たちの幸せを本気で祈った作品はこの灰羽連盟だけです。彼女たちの魂が救われることを願い、私は何度も涙を流しました。

 作品を見終わった後には様々な感情が心の中で渦を巻いていたような気がします。自分が生きているこの世界のことだとか、灰羽たちのことだとか、家族や友達のことだとか、何だか言葉にならないような思いで心は溢れていました。

 しかし、それは決して不快な思いではなく、なんだか不思議と優しい気持ちだったことを覚えています。

 

 灰羽連盟はそんな作品です。

 

 

 

 

 下記の動画は外国人による灰羽連盟の紹介動画です。

 この老人の灰羽批評はかなり的確であり、一見の価値があると思います。ただしネタバレを含んでいますので初見の方は注意してください。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

最後に

 

 

 ネタバレ注意!!!

 

 

 かなりのネタバレですが、一般的に言われている『灰羽連盟』の解釈と個人的な考えを書こうと思います。

 

 

 

 

 

 一般的に多く言われていることは、グリの街は死後の世界であり灰羽はすでに死んだ子供たちであるという解釈です。

 灰羽が生まれる前に見ていた夢は死の直前の風景で、例えば川の中を魚のように漂っていた夢を見たことから『カナ(河魚)』と名付けられた少女の場合は、川で溺れ死んだことが原因ではないのかと推測されるわけです。

 

 灰羽はグリの街で誰からも守られる存在です。そこは平和で楽園を想像させる情景です。しかし、その世界は街の周囲を取り囲む巨大な壁によって隔てられており、壁は外の世界にある全ての悪いものから灰羽を守っていると言われています。

 これらのことから、グリの街は死によって引き裂かれた子供たちの魂を救済する世界と考えることが出来ます。灰羽は外の世界の記憶を全て失い、グリの街で永遠とも言える幸せを得ているのです。

 

 しかし、平穏な時間は永遠ではありません。

 グリの街の祝福を受けた灰羽はある日ふと壁の外へ旅立ちます。作中では何人かの灰羽が祝福を受けて旅立ちますが、いずれの灰羽たちは何らかの“心の充足”を満たして壁の向こうへ旅立っています。

 グリの街が死後の世界であるならば、壁の向こう側は現世の世界です。灰羽たちはグリの街で少しずつ心の充足を満たし、再び現世で生を授かるための準備をしているのではないでしょうか。

 

 その一例として灰羽は街で何らかの仕事をしますが、そこに金銭の授受は一切存在しません。灰羽は金銭を受け取ることを禁じられていて、その代わりに仕事の分だけ何らかの品をもらい受けることが出来ます。ただし、その品は誰かが使用したお古である必要があるのです。

 灰羽が手にするものは必ず誰かの手を離れた品です。

 その品には所有していた人々の思いや情が込められており、灰羽は金銭ではなく“それ”を受け取っているのではないでしょうか。灰羽は街の人々から感謝や情をもらい、心の充足を満たすために仕事をしているのです。

 そうやって少しずつ、心の中に“それ”を貯めていって、そしてもう“充分”になるまで満たすことが出来たら、そのとき灰羽は街の祝福を受けて壁の向こうへと、つまり再び現世へと還ってゆくのだと私は考えます。

 作中でも、人と人のつながりや関係性を強調するような描写が多々見受けられます。誰かの思いを受けることで、灰羽は癒されているのかもしれません。

 

 

 では、罪憑きとは一体何でしょうか。

 

 これはラッカとレキの物語から作中でかなり描写されるために、想像することは難しいことではないと思います。むしろ“想像”してしまうことにより、灰羽の物語にいっそうの深みと悲しみを覚えてしまうのでしょう。

 罪憑きとはなんであるのかを考え、考えて、本当に考えて、そして出てきた結論に私は胸が潰されそうになる思いを感じました。胸が苦しくて苦しくて、本当にこんな物語であっていいのだろうかと涙を流しました。それでも作中に救いがあるからこそ、彼女たちの幸せを祈ることが出来るのだと思います。

 

 

 罪憑きとは自殺をした子供と考えられています。

 

 

 ラッカは空を落ちる夢から投身自殺、レキは彼女自身のセリフから列車に身を投げ自殺したことがわかります。

 罪憑きの灰羽は夢の内容をはっきりと覚えていません。ラッカとレキも断片的な記憶だけがあり、肝心の何かを思い出すことが出来ていませんでした。その理由は、罪憑きにとっては思い出したくもない内容だからに他ならないでしょう。自殺という罪に囚われた心は最後の光景を固く閉ざしているのです。

 事実、ラッカもレキも自身の罪を認識したときには夢の内容を思い出しています。そして自身の罪と向き合うことで二人とも救いを得ることが出来たのでした。

 

 物語の序盤に平和なグリの街や幸せそうなラッカやレキが描かれることもあり、罪憑きの存在を知った後に出てくる感想は『なぜ、彼女たちが?』という一言に尽きます。

 かつての世界で彼女たちがなぜ自殺をしたのかは決して描かれません。全てはグリの街に来るときに消えた記憶の中であり、永遠に知ることの出来ない内容です。

 であればこそ、どうしても彼女たちのかつての記憶を捜してしまうのだと思います。なぜ、どうして、そんな言葉がぐるぐると頭の中を回り続け、延々と輪を描きながら私を捉えてしまうのです。

 

 しかし、そんな視聴者以上に延々と輪に囚われてしまっているのがラッカとレキです。作中では罪の輪に囚われていると表現されています。

 罪憑きは罪の輪に囚われた者であるという説明があります。罪の意識に心が苛まわれ、延々と自問自答を繰り返してしまっているのです。当然、その心は他者の情を受け容れることが出来ず、心の充足が満たされることは決してありません。ゆえに街の祝福を受けることが出来ずに旅立ちの日を迎えることが出来ないのです。

 そのような灰羽にとって、グリの街は監獄以外の何者でもありません。

 

 しかしそう考えると、必ずしも自殺をした者が罪憑きになるとは限らないのかもしれません。現にラッカは始め普通の灰羽でしたが、クウの巣立ちをきっかけに罪憑きとなっています。

 では、彼女たちが囚われてしまった罪とは何なのでしょうか・・・・・・。

 

 

 

 そうやって考えれば考えるほど、様々な可能性が浮かび上がり、そして消えていきます。答えが存在しないからこそ、思考は深く沈んでどこまでも広がり続けてしまうのです。

 どこかで自分の納得のいく答えを探し出さねば、この灰羽連盟を評価することは出来ないでしょう。その答えに納得出来ず、あるいは答えを探す行為自体に面白味を感じることが出来なければ、このアニメは駄作となります。ただ鬱々としたつまらない作品と映るはずです。

 

 

 しかし、その答えが見つかり、そこに何らかの意味が見出せたのならば。きっと。

 

 この灰羽連盟というアニメは決して忘れることの出来ない作品になることでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に関連動画をひとつ。

 非常に完成度は高く、灰羽の世界を見事に表現されています。

 

 

 


 

 


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