好きな音楽があります。

気がつくとメロディーを口ずさんでいたり、何度聞いても聞き飽きず、繰り返し繰り返し聞き続けている曲です。でも、その曲の何が良かったのかを考えてみると、本当に心惹かれた曲というのは言葉で説明するのがなかなか難しいのだと思います。

私にとってその曲は、Akeboshiの「A Nine Days’ Wonder」です。

この曲を初めて聴いたときは、実のところそこまで感動したわけではありませんでした。ただ、スッと心の奥深くに入り込んだのだと思います。

今では、音楽プレイヤーでの再生数が全曲の中でダントツでトップです。

何がそこまで私を捉えて離さなかったのか、それを少し考えてみようと思います。

まずはAkeboshiについて紹介しましょう。

Akeboshi(あけぼし)は1978年生まれの日本のミュージシャンです。

TVアニメ「NARUTO -ナルト-」の第一期EDである『Wind』や、松たか子への楽曲提供『時の舟』、井上陽水との共作『Yellow Moon』などが有名どころでしょうか。

公式HPにProfileが載っていますのでご紹介です。

公式HP:明星/Akeboshi Official Web Site

幼少期よりピアノを習い始め、13歳からバンド活動を開始。高校卒業後に渡英し、リバプールの音楽学校LIPAに留学。在学中の2002年、ミニアルバム『STONED TOWN』でデビューすると、いきなり10万枚に達するロングセラーを記録。以降、井上陽水と共作した『Yellow Moon』や、イギリス・アイルランドでの海外レコーディングを行ったアルバム『Meet Along the Way』など意欲的な作品を発表し、松たか子や一青窈への楽曲提供、映画『ぐるりのこと。』の主題歌および映画音楽を担当するなど多方面で活躍。今年1月には村上春樹、是枝裕和、仲間由紀恵とコラボレートしたサッポロビールの箱根駅伝特別CMで音楽を担当し話題を集めた。

出典:明星/Akeboshi Official Web Site

私自身はナルトのEDで知り、アルバムを購入したことで知った歌手です。

どの曲も素敵で聞いていて心が落ち着きます。そして、中でも「A Nine Days’ Wonder」は本当に何度も何度も繰り返し聞きました。

曲調や歌声がいいというのはもちろんあります。しかし一番の理由は、歌詞の意味がなかなか理解出来なかったからだと思います。

英語が分からなかったというわけではなく(世の中便利なものはいっぱいあります)、歌詞の意味が「何を意味しているのか」が分からなかったのです。

この歌は何を歌っているのか、ただ単にメロディーがいいという曲ではないような気がして、どうしようもなかったのでした。英語の意味は分からなくとも、何かが私の心に訴えかけていたのだと思います。でなければ意味の分からない曲を繰り返し聞くということが、私には説明できません。

だからこの歌のことを理解したくて、本当に何度も何度も聞きました。

そしてあるとき、これは戦争帰還兵の歌ではないかと思ったのです。そう考えると歌詞の意味が理解出来るような気がしました。

hot express music magazine(現在は更新を停止し、新しいページになっています)」という音楽情報サイト内に「Akeboshi ライブレポート」というページがあります。同サイトではAkeboshiへのインタビューも掲載されており、なかなか興味深い内容です。

そのページにこのような記述があります。

また続く曲も、イスラエルの友人が母国に戻り戦争へ行くか、二度と母国に帰らず亡命し外国を旅し続けるか、その選択に迫られているという現実から生まれた歌『One step behind the door』。生命と心の行き先をすぐに決めなければならない者の葛藤。生まれながらに背負った運命を受け止めるのか・抗うのかの戦いが今目の前で、激しき怒りのような音楽としてズシンと響き渡る。Akeboshiの音楽がアイリッシュの継承だけに留まらない理由、彼の音楽が単なるヒーリングに収まらない理由、彼が探し続け、突き詰めようとする音楽の存在意義がそこにはあった。

出典:Akeboshi ライブレポート

Akeboshiが生まれたのは1978年です。

そして1990年から2000年にかけては湾岸戦争やユーゴスラビア紛争があり、2003年からはイラク戦争が起きています。「A Nine Days’ Wonder」が収録されたアルバムが発売されたのは2005年で、前述の「One step behind the door」は2006年です。

この「戦争」というものが一つのキーワードになるのではないか、繰り返し曲を聞く中でそう感じたのです。

そこで私なりにこの「A Nine Days’ Wonder」の意味を考えてみたいと思います。

「A Nine Days’ Wonder」というのは、「注目を集めても、すぐに忘れられてしまう物事」という意味です。日本では「人の噂も七十五日」ということわざがありますが、これと同じ意味です。日数に違いはありますがやがて忘れられるという意味で共通です。

歌詞を見てみましょう。下の日本語は私の簡単な訳です。

A nine days’ wonder looking back As the sun goes down

As time goes by a sketch of life

On the wall worn out

 

振り返りし、「A Nine Days’ Wonder」

壁に描かれた人生が朽ち果てようと

日は沈み、時はただ過ぎ去る

最初のここは物語の導入です。タイトルの「A nine days’ wonder」がいきなり出てきます。

One day she said in the usual tone

that I don’t shine anymore

So I laughed and said “Can you bring it back?”

She stands alone watching the leaves fall

 

ある日君はいつもの声色で

あなたはもう輝いて見えないと言った

私は笑い、君が取り戻させてくれるかい?と言うと

君は立ち上がり落ちゆく葉を一人眺めていた

何気ない日常です。男にとっては単なる冗談だったのかもしれません。

しかし、「“Can you bring it back?”」の問いかけに対して、彼女は何も言いません。なぜ、何も言わなかったのでしょうか。

So many places So many ways

But there’s no way home Nowhere I belong

So many faces fade away

And then life goes on

 

たくさんの場所、たくさんの道

でも、私の家は、私の居場所はどこにもない

たくさんの人は去りゆき

人生はただ過ぎていくだけ

そしてサビです。ここの部分だけを見るとすごく悲しい歌詞です。何度も繰り返されるこの曲一番のメッセージでしょう

Off the rails dream away

the amber lights flicker out

 

道は外れ、夢は去った

琥珀色した光が明滅する

「the amber lights」は信号の黄色信号の意味があります。「Off the rails」とあるように、夢は道(レール)をはずれて黄色の信号がただ明滅している様子です。

信号はメッセージを送っていても、道は外れていくのでしょうか。

an old soldier lives in the dark

says the light only causes pain

 

老兵は闇の中で生き

光はただ痛みをもたらすだけと言う

この「an old soldier」というのが気になります。男にとってこの老兵は一体何なんでしょうか

光を避け闇に生きる老兵は、男の知る誰かなのでしょうか。私にはこの老兵は男自身のような気がします。

Now I don’t listen to him this time

I packed my bag and I walk to the bus stop

Stars start falling down like a yellow rain, like fire-works

I stand alone watching the stars fall

 

今、彼の言葉は聞かずに

荷物を背負ってバス停へ向かう

星々が黄色い雨のように、花火のように降り注ぎ

私は一人眺めていた

老兵の言葉は聞かずに男は歩き始めます。しかし、そこには目的も場所も見出せません。なぜ男は歩きだしたのでしょうか、どこへ行くのでしょうか。

そして星々が降り注ぐさまを男は見ているのですが、ここで「a yellow rain」と「fire-works」が何を表しているのかがすごく大事なんだと思います。

素直に直訳すれば「黄色の雨」と「花火」です。星の輝きを黄色と捉え、それが雨のように、花火のように降るさまと捉えることも出来るのでしょうが、それは間違っていると思います。

「a yellow rain」は黄色の雨、黄色の雨とは毒物を含んだ雨が降るさまを表しています。チェルノブイリの事故の際、放射性物質を含んだ雨が降るさまを「yellow rain」と言いました。あるいは毒物を含んだ液体を空中から散布する軍の攻撃という意味もあります。

「fire-works」は花火と訳されますが他にも爆発といった意味を持ちます。火薬が爆発することで花火は輝くことが出来るのです。

では火薬が爆発するということはどういうことか、それはミサイルであり、爆撃ということではないでしょうか。

では改めて歌詞を見てみます。

Stars start falling down like a yellow rain, like fire-works

I stand alone watching the stars fall

「a yellow rain」や「fire-works」のような「Stars」。

それを一人で見ている男は、果たしてどのような心中なのでしょうか。それを想像するだけで胸が張り裂けそうな息苦しさを感じます。そして私には疑問も生まれます。

果たして「Stars」というのは夜空に浮かぶ星々のことなのでしょうか。

本当に男は星を見ているのでしょうか?

何か別のものを見ているのではないか、あるいは男の心の中に浮かんできた風景であって、実際には何も見てはいないのではないでしょうか。

ベトナム戦争の際、戦争による米兵の死者の実に3倍の帰還兵が自殺したことは知られていることです。戦争により病んだ精神にアルコール中毒や薬物中毒、多くの帰還兵が自ら命を絶ちました。

そのことを知っているからこそ、男が出会った老兵は誰なのか、男が見ている星は本当に星なのか、そう私は考えてしまいます。

そして歌は終わります。

Still living in a world we know

Still living in a world we know

hold on there and then life goes on

 

まだ、この世界で生きていく

まだ、この世界で生きていく

ここにしがみついて、人生はただ過ぎていく

男の最後の叫びです。

ここの「in a world」と「we know」の二つの言葉が、この曲でも大事なところだと私は思います。なぜ「in the world」ではなくて、「in a world」なのでしょうか。そして「we know」の「we」は誰なのでしょうか。

上の訳ではそのことには触れていません。うまく訳せないという理由もあるのですが、単なる訳だけならこれでもいいと思うからです。でも、そこには言葉以上のものが込められているような気がしてなりません。

これは戦争から帰還した一人の男の物語です。

男はつらい思いも苦しい思いも、やがては忘れゆくだろうと日常の中へ戻りました。

しかし彼女はそんな男に、あなたはもう輝けないと言います。

男の中にある何かに彼女は気づいたのか、去っていくのでした。

男の居場所はどこにもありません。

それでも人生はただ、過ぎていくだけ。

夢は消え、目の前に現れたのは闇に生きるもう一人の自分。

それを振り切るかのように、男は耳を貸さずに旅立ちます。

旅の中、男は降り注ぐ星々を眺めています。

目蓋に浮かぶのはかつてのこと、男は一人で星を眺めています。

男の居場所はどこにもありません。

それでも。

それでも、まだ、この世界で生きていく。

ここにしがみついて、人生はただ過ぎていく。

この曲はとても悲しい曲です。歌からもその悲しさは伝わってきます。だからこそ歌詞の意味がいまいちわからなくとも、その思いは届いたのだと思います。しかし、この曲はただ悲しい悲惨な曲では終わりません。

それら全てを飲み込んで、人生はただ過ぎていくだけなのです。

サビにおいて、男は自分の居場所がないことを叫びます。私にはそれが泣き叫んでいるようにしか聞こえません。

その感情はとても悲しいです。

その感情はとても切ないです。

しかし男は「And then life goes on」と、ある意味達観しています。自分の不運も悲劇も、ただただ過ぎていくことだと歌います。それはラストにおいても同じです。

だからこそ、男は泣きながら叫んでいてもやがて歩き始める、そんな気がするのです。

そこには戦争というものに対して肯定も否定もしない姿勢が見えます。少なくともこの曲の中ではそういった表現はありません。あるのはただ、

Still living in a world we know

hold on there and then life goes on

というメッセージだけです。

どれだけ悲惨なことがあろうとも、人生はただ過ぎていくだけであり、やがては忘れてしまう「A Nine Days’ Wonder」でしかないということです。

それがたとえ戦争であっても変わりはしない、それは人の業とも言えるのではないでしょうか。

ただただ人生は過ぎていくだけなのです。

どんなにつらいことがあっても、この曲を聴けば私はがんばれる。だからこの曲が大好きです。

でも、どんなにいいことがあったとしても、やはり「A Nine Days’ Wonder」でしかないと言うことも出来ます。

だから人生は難しい。