スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ】を読んだことで私はニンジャスレイヤーという作品にのめり込み始めました。

ヤモト・コキが初登場する【ラスト・ガール・スタンディング】とその続編である【スワン・ソング~】の両編は極めて完成度が高く、ニンジャスレイヤー屈指の名エピソードと言えるでしょう。シルバーカラス=サンが最高に格好良くて、切なくて、感動のあまり涙が流れてしまうのでした。

そんなわけで今回はニンジャスレイヤー第1部の名エピソード【スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ】より、クライマックスシーンに登場する名言、

シルバーカラスの目が笑った

をご紹介したいと思います。

シルバーカラスの目が笑った

【ラスト・ガール~】でヤモトはニンジャとして目覚め、彼女の日常は崩壊しました。彼女のその後が描かれているのが【スワン・ソング~】のエピソードです。

ヤモトはソウカイヤからたった一人で逃亡を続ける中、カギ・タナカと名乗る男に出会います。

カギはシルバーカラスの名でツジギリを営むニンジャでした。罪無き人々を己の欲望のために無慈悲に殺めてきた冷酷な殺人鬼です。しかし身体は病に蝕まれ、その余命はすでに幾ばくもありませんでした。

罪滅ぼしのためか、ただのわがままか、カギは未熟なヤモトを助けてカラテを教え込んでいきます。ほんの短い期間でしたがヤモトは様々なことをカギから学び、戦う力を得ていくのでした。

エピソードのクライマックス、カギと分かれたヤモトの目の前にシルバーカラスを名乗るニンジャが追っ手として現れ、二人の決死の殺し合いが始まりを告げます。その激しい攻防の一瞬に挟まれるのが、

シルバーカラスの目が笑った

という地の文です。

出典:【スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ】 #5より

インストラクション

ニンジャスレイヤーでは度々【インストラクション(instruction)】という言葉が登場します。指示や助言、教育的な指導といった意味の言葉で、作中では師匠が弟子に授ける言葉としてよく使われます。

【スワン・ソング~】ではシルバーカラスとヤモトが師弟関係になり、シルバーカラスがヤモトへとインストラクションを授けます。「託す者と託された者」、それがこのエピソードの中心テーマとして描かれており、ヤモトはシルバーカラスから何かを託されました。

しかし、シルバーカラスには時間が残っておらず、ヤモトに全てを教えることは出来ませんでした。ヤモトは再び一人になり、追っ手のニンジャとの戦いが始まります。ですが今のヤモトにはシルバーカラスから授かったインストラクションがありました。戦う力が、ありました。

出典:【スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ】 #4より

ヤモトはカラテを知り、奥ゆかしさを知り、戦う術を手に入れました。しかしシルバーカラスから授かったインストラクションはその始まりにしか過ぎません。託された思いを背負い、ここから彼女の戦いが始まっていくのです。

見惚れるほどに美しいカラテ

ヤモトは追っ手のニンジャとの戦闘に勝利します。しかし、彼女の前にはさらなる追っ手のニンジャ、シルバーカラスが現れるのでした。

シルバーカラスは自分の正体を隠し、一人の敵としてヤモトと対峙します。最後の戦いこそ、シルバーカラスがヤモトに授ける最後のインストラクションでした。

私は二人の最後の戦いがたまらなく好きです。あまりの美しさに、見惚れてしまいます。そしてその結末に涙が流れてしまいます。

「カタナを振るえ」「イヤーッ!」ヤモトが仕掛ける!シルバーカラスは自剣の鍔でヤモトのニンジャソードを受けた。圧力!ヤモトは押し潰されそうになる。彼女の目が見開かれた。「イヤーッ!」呼吸の隙間を縫うように、彼女はくるりと回転し、この圧力を逃れた。シルバーカラスの側面を取る!

「イヤーッ!」横薙ぎの一撃。シルバーカラスは身を沈めて躱す。ヤモトはその動きを予期していた。脛を斬りにくる斬撃をも。ヤモトは己のカタナを振り抜いた時には既に次の予備動作に入っていた。足元を薙ぐシルバーカラスのカタナを側転で躱し、着地と同時に斜めに斬り下ろす。「イヤーッ!」

「イヤーッ!」シルバーカラスはそれを自剣の鍔で弾き、前蹴りを放つ。「イヤーッ!」ヤモトは後ろへ跳ばず、その蹴りの動きを悟り、わずかに身を逸らして回避した。シルバーカラスの目が笑った。「イヤーッ!」ヤモトはシルバーカラスの軸足を蹴って転ばせようとした。

「イヤーッ!」シルバーカラスはその場で跳躍して回避すると、身体を捻って地面に手をつき、逆さになりながらヤモトを蹴った。「ンアーッ!」ヤモトは不意を打たれ、横から蹴られて地面を転がった。転がりながら起き上がると、既にシルバーカラスは目の前だ。大上段から振り下ろされるカタナ。

「イヤーッ!」ヤモトは地面を蹴ってシルバーカラスの懐へ飛び込む。その顔のすぐ横を死の刃が通り過ぎる。彼女の黒髪が幾筋か断たれ、桜色の光を帯びて宙を舞った。彼女はニンジャソードを振り抜く。シルバーカラスは振り下ろしたばかりの刃を跳ね上げ、これを防いだ。「なぜ泣く。バカめ

出典:【スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ】 #5より

二人の戦闘シーンを一部抜粋し、一部強調してみました。

この戦闘シーンにおいて、二人の感情はほとんど描写されていません。感情を読み取れる箇所は色付きで強調した部分だけです。戦い続ける二人の間に会話はなく、淡々と相手の手を読み裏をかき、一瞬の隙を見逃しません。そこに感情の描写はありません。

しかし、ほんの一瞬、ほんの短い文章の中に、ありったけの感情が詰め込まれています。シルバーカラスは戦いの最中、笑いました。ヤモトは戦いながら、泣いていました。そのことに気づかされた瞬間、二人の戦いに見惚れていた自分に気がつきます。

イヤーッ!」という叫び声はニンジャスレイヤーを代表するへんてこなセリフの一つです。「イヤーッ!」「グワーッ!」で戦闘が描写されるため、端から見るとただのギャグです。そりゃあ私も最初は笑いました。

ですが、この戦闘シーンにおいては「イヤーッ!」がとても重要な役割を果たします。二人の戦闘シーンに感情の起伏が見えてこない要因は、単純に感情を描写するセリフや地の文がないだけではなく、何度も繰り返される「イヤーッ!」という叫び声にこそ集約されているのです。

上の抜粋文だけでも「イヤーッ!」は9回、「ンアーッ!」も入れれば10回も単純な叫び声が繰り返されています。この叫び声は極めて記号的です。例えば「シルバーカラスは裂帛の声を上げる」とか「ヤモトは危険を察知した」などの文章が前後にあればそこに感情が見えてきますが、この戦闘シーンにそういった描写はありません。全て同じ「イヤーッ!」が繰り返されています。

それにもかかわらず、二人の戦いは決して無感情には見えません。むしろ感情が描写されていないからこそ、「イヤーッ!」に込められたありったけの感情が伝わってきます。そしてその感情を最大限に引き出しているのが、

シルバーカラスの目が笑った

であり、もう一つ挙げるのならば「なぜ泣く。バカめ」だと思うのです。

感情が見えてこないはずの戦闘描写を一瞬で感情鮮やかなものへと昇華させているのが、この二つの短い文章です。この文章表現を私は心底美しいと感じます。この戦闘シーンを読んでいて私は鳥肌が立ちました。繰り返される「イヤーッ!」の一つ一つに、全く違う感情が込められていることが伝わってくるのです。

どうしてシルバーカラスは笑ったのか、どうしてヤモトは泣いていたのか、そのことに思いを馳せると切なさで胸が一杯になってきます。そして訪れるエピソードの結末に、涙が流れてしまいます。

【スワン・ソング~】は本当に名エピソードです。それはキャラクターやストーリーが素晴らしいというだけではなく、ニンジャスレイヤーだからこそ成し遂げられた文章の美しさを感じることが出来るからだと私は思っています。

シルバーカラスの目が笑った

正直なところ、ここまで端的で美しい文章はなかなかお目にかかれるものではないと思っています。たったこれだけの短い文章ですが、そこには言葉以上にたくさんの大事なものが込められているように私は感じました。だから名言として選びました。

ニンジャスレイヤーの文章表現はネタ要素が注目されやすいですが極めて美しい文章です。時にその美しさに見惚れてしまうことがあります。その快感を理解してしまったとき、私はもうニンジャスレイヤーから目を離すことが出来なくなってしまいました。

【スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ】 ニンジャスレイヤー Wiki*

【スワン・ソング~】は名エピソードではありますが、やはり前編にあたる【ラスト・ガール・スタンディング】を読んでこそのエピソードだと思います。これから読まれるという方は是非両編合わせて読んでみてくださいな。特に【ラスト・ガール~】のエピソードはコミカライズもされていますのでこちらもすごくオススメです。

【ラスト・ガール・スタンディング】 ニンジャスレイヤー Wiki*

出典:コミカライズ【ラスト・ガール・スタンディング】#1より