マグロはお魚です。

泳ぐと速い。スゴイ速い。流線型のボディには心ひかれるものがある。あと食べるとウーマイ。

ニンジャスレイヤーにもマグロは登場します。スシ・ネタとして広く愛され、大トロ粉末は高額で闇取引されている。だいたいはバイオ・マグロだが、ツキジ・ダンジョンには高級オーガニック・マグロが冷凍保存されていることもあるので一攫千金だ! 殺人マグロにはちゅういが必要だ。ヒトを殺す。知性マグロは知性があるのでよくしゃべる。

このようにマグロはスゴイ。今回ご紹介するエピソードのタイトルにもマグロが入っている。それだけでかなりスゴイことがわかるだろう。興奮がおさえきれない!

そんなわけで今回はニンジャスレイヤー第3部のエピソード【マグロ・サンダーボルト】より、

ソンケイを信じるんだ

をご紹介です。なぜこのセリフを選んだのか?……担当者がラリっていたとしか…

マグロ・サンダーボルト

「あいつら一生、時速100キロだかで泳ぎ続けるんだとよ。泳ぎ出したら止まらねえ。止まれねえのさ」

サムライヘルム・オブ・デス・クランに所属するヤクザのアベはミカジメ料の取り立てにトラタの店を訪れていました。アベは与太話として神秘的な魚の話を始めます……。

一方その頃、ヤクザから逃亡中のチンケな犯罪者ラッキー・ジェイクは追い詰められていました。しかし彼は幸運にも瀕死の浮浪者が倒れているのを発見し、即座に身代わりに仕立て上げて逃亡を続けます。おお、私たちはこの浮浪者を知っている! ハンチング帽とトレンチコートの男を知っている!!!

かくしてジェイク抹殺用に用意された【一定速度で走り続けなければ爆発するクソ装置】を取り付けられたニンジャスレイヤーの、決死のデスマラソンが始まりを告げました!

事件に関与した全ての人々を無慈悲に引き摺り回し、マグロたちは走り続けます。泳ぎ出したら止まらねえ。止まれねえのさ……

【マグロ・サンダーボルト】ニンジャスレイヤー Wiki*

個人的に【マグロ・サンダーボルト】は今のところニンジャスレイヤーの中で一番好きなエピソードです。

どう面白いのか書き出したら本が一冊書けてしまいそうなので、中身については簡単な紹介にとどめておきます。2015年6月現在ではまだ書籍化されていませんのでTwitter連載分しか読むことが出来ませんが、以下のリンクから全て無料で読めます。未読の方はまずは読んでみてください。話はそれからだ!

さて、このエピソードの中でハシバというヤクザが登場します。かつてはソンケイを体現する偉大なグレーターヤクザでしたがその栄光はすでに過去の話、現在は麻薬に溺れる薬物中毒者と成り下がった男です。

今回ご紹介したい名言「ソンケイを信じるんだ」は、そんな麻薬中毒者の男と彼の幻覚に現れたイルカチャンの会話の中に登場します。

ハシバメソッドとも呼ばれる例のアレです。アレ。

ハシバとイルカチャン

かつてのハシバは偉大なグレーターヤクザでした。しかし、年老いたオヤブンがサイバネにより全盛期並の活力を取り戻したことで、ハシバは将来への不安と地位への不満を抱き始めます。そして次第に麻薬へと溺れていくのでした。

ハシバが使用した新型の電脳麻薬イルカチャンはとびきり危険なドラッグでした。思考がおぼつかないハシバの左右には2匹のサイバーイルカの幻覚が浮かび、ハシバへと語りかけてきます。

出典:【マグロ・サンダーボルト】#2より

ハシバとイルカチャンが頭を抱えたくなるようなことを次々に起こしていくのがこのエピソードの肝です。読み進める上でも彼らの会話や行動は注目すべき点なのですが、むしろこいつらさえいなければあんなことには……。

どうしてこうなった。

ソンケイを信じるんだ

電脳麻薬で完全にラリっているハシバは正常な判断が出来ず、ラッキー・ジェイクとニンジャスレイヤーを見間違えるという、あり得ないレベルのミスをしでかします。そしてそのミスがとんでもない事態を引き起こし、ヤクザクラン存亡の危機を招いてしまうのでした。

怒り狂ったオヤブンの罵倒でようやく自分の立場を理解し始めるハシバですが、完全に麻薬がキマッているために明後日の方向へ思考が飛んでいきます。そして錯乱状態のハシバとイルカチャンの会話が始まり、その中に今回選んだ名言「ソンケイを信じるんだ」が登場するのです。ひどいシチュエーションだな。

出典:【マグロ・サンダーボルト】#4より

何度見てもヒドイ会話である!

ラリってんじゃねえだろなハシバテメッコラー!

この名言、ひいてはこの【マグロ・サンダーボルト】のヒドイ(スゴイ)ところは、誰がどう見てもラリってる状況や会話なのに意外にも芯はしっかりとしているところにあると思います。上記の会話も一見するとばかばかしい薬物中毒者の妄言でしかないのですが、くやしいほどにこの会話は的を得ています。

サイバネが発展した世界において、もはや外見は個人を特定する条件にはなり得ません。誰もが簡単に(金さえあれば)身体を機械化して人相を変えることが出来ます。クローン技術が発展し人格すら操作可能であれば、もはや個人を特定する条件は一体どこに見いだせるというのでしょうか。クローンヤクザはどこまで個人として認識出来るのでしょうか?

「あれは確かにジェイクだったよな?」という問いに対して『サイバネに溢れたこの世界で、ジェイクかどうかを精確に定義するのは難しいね』とイルカチャンは答えました。スゴイ良いこと言ってる気がするけど薬物中毒者とその幻覚というシチュエーションが最悪だ!

定義することが難しいならどうするのか、イルカチャンは言い放ちます。

ソンケイを信じるんだ

ソンケイとは何か。それはニンジャスレイヤーに登場するたいへんむずかしい概念である。ぱっと見ではヘンテコなものに見えますが、よくよくエピソードを読み進めていくと面白い概念だと感じるはずです。レッサーヤクザのアベはソンケイについてこう語っています。

出典:【マグロ・サンダーボルト】#1より

ソンケイとは目に見えないものであり、他者からの信頼や羨望を行動の結果として積み重ねていくものです。やがてはそのソンケイが己の信念や威厳としてオーラを放ち始めます。自分の内にある信念や度胸といったもの、そして外からの信頼や羨望といたものの複合的な概念がソンケイというわけです。

先のイルカチャンの『ソンケイを信じるんだ』という言葉は、

これまで自分が積み上げてきた経験や信念を信じるんだ』

というような意味になります。

ジェイクを精確に定義することが出来ない、つまりは判断を下すだけの条件が存在しないならば、自分自身を信じろとイルカチャンは言っているのです。「おまえが信じる、おまえを信じろ!」というわけです。ナンカどっかで聞いたことある言葉ですネ。あのアニキこそ、ソンケイの塊ではないでしょうか。

イルカチャンの言葉にハシバは何やら閃きます。「つまり俺が奴をジェイクだと認識した事が重要なわけだろ」そしてイルカチャンも言い放ちます。『彼が俺はジェイクじゃないって言っても、彼自身にそれは証明できないんだ

最後の掛け合いも頭を抱えたくなるのですが、本質的には何も間違ったことは言っていません。他者の外見が決定事項にならない以上、自分自身のソンケイを頼りに決定を下すことは合理的な判断です。そして定義が存在しないために、ジェイク自身も自分はジェイクではないということを証明することが出来ません。

言われてみればその通りの話なんですが、薬物中毒者とイルカチャンに言われると納得がいきません。脳がりかいを拒みます。本当にこいつらの会話にはくやしい気持ちにさせられます。なんでこんなくだらないシチュエーションなのに、こんなにも面白い会話をしているのでしょうか!

このエピソードでは随所にこういったおかしい場面が出てきます。というか最初から最後までおかしいところだらけです。なのに、それらがことごとく面白いところが本当に卑怯だと思います。くやしいんですよ。どうしてこんなに面白い話が出来上がるのか分けがわかりません。

名シーン、名言のオンパレードに脳みそは耐えられずにばくはつしそうです。【マグロ・サンダーボルト】はまさに名エピソードと呼ぶに相応しい、最高傑作です。インフレイムやヘルオンアースみたいな本当の最高傑作の横にマグロが並んでるのが、また腹立つくらいにくやしくてたまらんのです。

ハシバメソッド

ハシバメソッドとも呼ばれるこのろんりはとてもスゴイ。一例としてこんな風に使える。

『娯楽作品に溢れたこの世界で、ニンジャスレイヤーが面白いかどうかを精確に定義するのは難しいね』

「じゃあどうすんだ」

ソンケイを信じるんだ

「つまり俺がニンジャスレイヤーを面白いと認識した事が重要なわけだろ」

『そうさ』

『あいつがニンジャスレイヤーはつまらないって言っても、あいつ自身にそれは証明できないんだ』

「そうだよな!」