おそらく、というか十中八九、ニンジャスレイヤーの物語の根幹には【ミーミー】の存在があることは間違いがないと思っています。ただ、ミーミーすら別のテーマへの布石である可能性が捨てきれないのがニンジャスレイヤーという作品の底の見えなさであり、本当に恐ろしいところだと私は感じています。

ミーミーの存在、ミーミーの概念に気がついた上で改めて作品を読み返してみると、至る所にミーミーがいたことに気がつくことでしょう。そしてそれは作品外にまで波及し、ニンジャスレイヤーが今のこの時代にTwitterで連載されているという現実にも驚きと関心を抱かずにはいられません。

そのように考えてみると、果たしてこれから先に一体どのようなことが待ち受けているのか、私にはちょっと想像が出来ません。この作品の迎える未来に何があるのか、私は結構本気で楽しみにしているのです。(2015年1月27日改訂

ミーミーとは

記憶違いでなければミーミーという単語が書籍で初登場したのは、【ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上 4】の巻末おまけページです。(これはちょっと確信が持てません。間違っていたら誰か教えてください)

このおまけページでは謎のニンジャ【ザ・ヴァーティゴ=サン】が読者の質問に答えるという企画が行われており、その回答の中にミーミーが登場します。

Q.6 この作品では、日本はなぜ鎖国をしているのですか?

江戸時代からずっと鎖国していたわけじゃないんだ。20世紀末くらいまではマトモだったんだけどね、Y2Kとそれに続く電子戦争が010111101010001……おっと、残念だがミーミーが近づいているらしい! ミーミー? しつこくて厄介な奴さ。ふにゃふにゃした邪悪な竜だよ。この俺を何千年も追いかけ回していて……見ろ! ミーミーだ、おいでなすったぞ! こんな時は逃げるに限る! じゃあね、また会おう!

出典:【ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上 4】p.591

……どう見ても質問への回答をはぐらかすための狂言にしか思えません。ザ・ヴァーティゴ=サン曰く【ふにゃふにゃした邪悪な竜】とのことですが、これ以降もミーミーはちょくちょく登場して、やっぱりよく分からない存在として描かれていきます。

ところが2014年の元旦に行われた読者からの質問企画においてミーミーの正体が朧気ながら判明しました。企画を締めくくる最後の小話として、ザ・ヴァーティゴ=サンがミーミーを操り背中に乗って飛び去っていくというシーンが存在します。

出典:2014年元旦に行われた質問企画

このシーンによって、ミーミーの存在は【meme】であることがほぼ確定しました。さらに小説本編の第3部でもミーミーについての言及が存在し、ニンジャスレイヤーという作品において最重要なキーワードの一つであることが予想されます。

memeとは

ミーミーという単語では何のことやら分かりづらいですが、【meme】であれば通じる方もいらっしゃるでしょう。確かにミーミーと読めますが、これをミーミーと翻訳して物語にねじ込むあたりに翻訳チームの狂気が透けて見える気がします。

【meme】は【ミーム】と読みます。

ミーム(meme)とは

人と人の間で心から心へとコピーされて伝播する情報

を意味します。

遺伝子を想像してください。私たち生物の体は遺伝子の情報を基にして作られていて、遺伝子は親から子へと受け継がれていきます。からだの設計図などと聞いたことはないでしょうか。この遺伝子こそが生物を構成する重要な要素であり、生物の進化に密接に関わってくるのではないかと多くの人々が考え研究をしてきました。これは物語の話ではなく現実的な科学の話です。

そして、生物の進化に遺伝子が関わるならば、文化の進化には一体何が関わるのか?ということを研究した人がいます。それが進化生物学者であるリチャード・ドーキンスです。

ドーキンスは【利己的な遺伝子】の著者であり、この本の中で脳から脳へと伝わる文化の単位として初めてミーム(meme)を定義しました。ミームとはドーキンスが作った造語で、後に多くの研究者に受け入れられて一般化していきます。

生物は遺伝子をコピーして子孫へと受け継いでいきます。これと同じ考え方で、文化もミームをコピーして人から人へと受け継いでいくだろうとドーキンスは考えました。そして遺伝子が進化するのと同様にミームも進化をしていきます。

簡単に言ってしまえばミームとは文化の遺伝子のことです。進化論や遺伝学で培ってきた手法を基にして、人類学や社会科学における文化を研究しようと考えたわけです。より詳しく知りたい方はWikipediaの項目を読むだけでも理解が深まると思います。

ミーム – Wikipedia

さてそろそろ本題ですが、ニンジャスレイヤーという作品におけるミームの果たす意味や役割はどのようなものなのでしょうか。私は二つの意味で重要なものだと思っています。

一つ目は作中におけるミームです。作中ではミーミーと呼ばれていますからここではミーミーと呼びましょう。ミーミーは作中において二つの意味で使われています。一つは先述したザ・ヴァーティゴ=サンと一緒に出てくる実体?を持つ謎の竜です。そしてもう一つは本来の意味でのミームの概念として登場します。

この本来の意味で使われているミーミーこそ、作中における最大の謎であるニンジャの存在と深く関わってくるのです。

「ドージョーやクランを作るのは我々の本能だ。人が子を成すのと同様に、我々はインストラクションを授ける」

「本能?何故かネェー?」

「いつイクサで果てるとも知れぬ身。センセイより授かったものを次世代に託す。それは当然の欲求では?」

「ならば君たちは、祖たるカツ・ワンソーのミーミーを伝搬している事になるネェー。彼は何者か?俄然興味が湧くネェー!」

出典:【ホワット・ア・ホリブル・ナイト・トゥ・ハヴ・ア・カラテ #4】リー先生とドラゴン・ニンジャの会話抜粋

ニンジャは生物として子を成すことが出来ません。

ニンジャになることで身体が変質することが原因のようですが、具体的な理由まではまだ判明していません。現時点で分かることはニンジャは遺伝子を用いた存続や進化が出来ないということです。

上記の抜粋シーンや様々なシーンから、ニンジャは他者へのインストラクション(教え)を通して自らの存続を伝授していたことが分かります。それはクランやドージョーを通して代々受け継がれ、長い年月を生き延び続けてきました。培ってきた戦闘技術、学んできた教え、礼儀作法、文化、これらこそ本来の意味でのミームに他ならず、であればこそ、ニンジャの本質とはミーミーを伝播する者と考えることが出来ます。

ニンジャとミーミー、この二つを繋げて物語を読んでみると本当に至るところにミーミーが存在します。フジキドがセンセイから授かったもの、ヤモトが出会い学んでいったもの、そしてニンジャに限らず多くの一般人の中にさえミーミーの存在を感じることが出来るのです。

サイバネ技術が発展しクローンも電脳化も当たり前の世界において、ミーミーの存在はすごく示唆的な要素ではないでしょうか。人の進化は遺伝子だけで為されたものではありません。ミーミーが深く関わってくるからこそ、そこに文化が生まれます。社会が生まれます。人のいるところに必ずミーミーがいます

ニンジャスレイヤーの物語になぜミーミーの要素がこれほどまでに取り入れられているのか、そしてどこへと向かっていくのか、分からないことだらけです。

ザ・ヴァーティゴ=サンと一緒に登場する邪悪な竜のミーミーはコトダマ空間に存在します。ならば、竜のミーミーは概念の根幹を為す存在、あるいは集合体である可能性すら出てきました。そして最も注目すべきは、ミーミーが堕落した存在として描かれているところではないでしょうか。

これらが何を意味しているのか、未だ情報は少なすぎて分からないことだらけです。今後の物語に大きく絡んでくる可能性は十分にあると思います。

そしてニンジャスレイヤーにおけるもう一つのミームは作外に存在します。ニンジャスレイヤーはインターネットを媒介にして広く話題になっていった作品です。作品そのものがミームに他なりません

トンデモな世界観や文章で人々の意識へと刷り込みを始め、無料公開という形でより広く多くの人々へと感染を促し、面白いと感じた人物がTwitterなどを利用して勝手に拡散していきます。これは理想的なマインド・ウイルスの形です。さらに拍車をかけているのがザ・ヴァーティゴ=サンの存在であり、読者のミームすら上書きしていく圧倒的な世界観だと私は思っています。

第4の壁すらあっさりと突破するザ・ヴァーティゴ=サン、彼はニンジャスレイヤーという作品において決定的な存在です。ようはあいつがウイルスを撒き散らしています。そしてそれを効果的なまでに演出しているのが、あからさまにおかしいのに不思議と受け入れられてしまう世界観です。

ニンジャとは、平安時代の日本をカラテによって支配した半神的存在である。

この短い文章の持つ破壊力に頭を抱えた方はかなり多いのではないでしょうか。たったこれだけの文章で【ニンジャ】【平安時代】【日本】【カラテ】といった言葉への認識にブレが生じ始めます。これらの言葉が持っていた本来の意味は薄まり、ニンジャスレイヤーの世界観に上書きされていくのです。少なくとも私はにんじゃと聞いたら、もうニンジャスレイヤーのニンジャが真っ先に頭に浮かび上がります。アイエエエ……。

ニンジャスレイヤーのミーミーは今後加速度的に拡散していくことが予想されます。小説本編の書籍も第2部が完結し、2015年にはアニメ化も決定しています。そしてツイッターでの連載も第3部が大きな盛り上がりを見せているのです。

ニンジャスレイヤーというミーミーが拡散していった世界の先に一体何があるのか、私は結構本気で楽しみにしているのです。今、全世界がニンジャされようとしているのだ。