
昨今のAI事情、書店員の現場から。
- Category : 書店員
近年、ChatGPTやGoogle検索のAI化など、身近な日常生活の中でAIと触れ合う機会が増えてきました。すごく便利になる一方で、個人的には不都合を感じてしまう場面もあります。
そんな中、少し気になる記事を見かけました。
→ Google検索のAI化は”悪”なのか?「クリックの質は向上」グーグルが反論 / Yahoo!ニュース
Google検索の「AIによる概要(AI Overview)」が実装されてからしばらく経ち、ユーザーの行動がどう変化したのかという内容です。個人的に気になる点は以下が示すように、求める情報の重要度によって行動が変化したというところです。
・簡単な検索だとトラフィックが減少した → AIの回答に満足して、それ以上調べない。
・複雑な検索だとトラフィックが上昇した → AIの回答に満足せず、より詳細を調べる。
心当たりがひとつあるので、今日はその話をしたいと思います。
書店で働いていて実際に起きた出来事です。
「この本探しています」それはいつもの問い合わせで・・・・・・
「すみません、この本探しているんですけど、在庫ありますか?」
そう言ってお客様が問い合わせたのは、とあるIT関連の本でした。ソフトウェアの使い方を解説したものらしく、具体的なタイトルを教えていただけたのですぐに在庫をチェックしました。タイトルが分かればささっと調べられるので有り難いことです。
が、調べても調べても該当する書籍が検索にヒットしません。本屋の書誌情報検索でも、Googleの検索でも、全く情報がありませんでした。似たようなタイトルの書籍はいくつかあったのですが、お客様に確認したところ、どれも違うとおっしゃいます。
まあ、ここまではよくあることです。
タイトルを間違えて覚えていたり、宣伝のキャッチコピーをタイトルと勘違いすることもあります。検索で情報がない商品の可能性としては、販路が限定されている場合もあります。電子書籍や通販限定、〇〇書店限定などは、本屋の書誌情報検索ではヒットしません。けれど、Google検索にも情報がないので販路が限定されているわけでもなさそうです。そもそもの商品が特定出来ない状況でした。
こういう状況では、お客様がその情報をどこで仕入れたのかを確認することが大事です。新聞で見た、ネットで見た、友達から聞いた、ほんの些細な情報が商品の特定に繋がります。少しだけ探偵気分を味わいながら、お客様とそういう会話をする時間はちょっと楽しかったりもします。犯人(商品)が特定出来たときは、心の中でガッツポーズをしちゃったりもして。
だから、こう尋ねるわけですよ。
「お客様、その本の情報をどこでご覧になりましたか? ネットの記事とかですか?」
「ChatGPTに聞いた」
もしや、その本は!
「ChatGPTに聞いた」
そ、そうきたか~!
ウワーッ!! これが時代!!!
つまり、「お客様がAIにソフトウェアの参考書を尋ねたところ、実在しない書籍が回答されて、それを書店で問い合わせた」という話です。実在しないものをいくら探したって見つかるわけないじゃ~ん!
タイトルが似ている書籍がいくつか存在していたので、おそらくそれらをAIがキメラ合体させて、実在しない一冊の書籍が生まれ落ちたと考えられます。結局、お客様にはお探しの書籍は実在しないことを伝え、店内にある同ジャンルの書籍をご案内して決着となりました。笑い話と言えば笑い話ですが、何だかな~とやるせない気持ちも湧いてきます。
これはAI黎明期における混乱のひとつではないでしょうか。AIの精度が低い、利用者のリテラシーも育っていない、そんな環境で負担を強いられる現場としては、まあ、たまったものではありません。まさか、AI経由で「民明書房の本どこにありますか?」的な問い合わせをされるとは、ちょっと驚きでした。
あくまでレアケースのひとつかもしれませんが、現にGoogle検索の場では「AIの回答に満足して、それ以上調べない」というユーザーが増えているそうです。
そのAIの情報は本当に正しいのですか? それを元に行動して本当に大丈夫ですか? そういう姿勢を疎かにしないように気をつけていきたいものです。でも、それは結局、AIだろうが普通の検索だろうが、情報を扱う上で当たり前の行動であり、自分の頭で考えることが大事なんだと、私は思うのでした。