本屋さんの児童書コーナーに置かれていた一冊、『杉森くんを殺すには』。

明るい色彩の表紙とは裏腹に、そのタイトルは児童書らしからぬ暗い雰囲気が漂っています。どこか呆けた表情の女の子が何を考えているのか気になって、私はこの本を買いました。

とても、素晴らしい作品でした。

主人公と同世代の中高生にはもちろんのこと、大人にもぜひ読んでいただきたい作品です。これから夏本番、読書感想文の題材にもオススメしたい一冊です。

著者は長谷川まりるさん。2018年に『お絵かき禁止の国』で第59回講談社児童文学新人賞佳作を受賞してデビュー、多くの児童文学作品を書かれており、本書『杉森くんを殺すには』は2024年に第62回野間児童文芸賞を受賞しています。

物語の主人公は高校1年生の女の子、ヒロ。

ヒロは友人の杉森くんを殺すことを決意し、大学生で兄のミトさんに打ち明けます。意外にもミトさんはヒロを肯定し、「やり残したことを今の内にやっておくこと」と「どうして杉森くんを殺そうと思ったのか理由をまとめること」をアドバイスします。そして、ヒロはやり残したことをひとつひとつ片付けながら、杉森くんへの思いを日記に書いていくのです。

この作品の大きな特徴は、ヒロの一人称視点で物語が進むところです。

その語り口がやけに軽妙でユーモアに溢れています。そのおかげで文章はすごく読みやすく、ヒロが抱く感情がストレートに伝わるのです。殺人という重いテーマを扱いながらも、スラスラと読み進められる文章術はこの作品のほんとに良いところだと思いました。

一方で、「この語り部を信じてもいいのか?」という疑惑が少しずつ膨らんでいきます。

ヒロは「人を殺そうと決意するほどに」何かを抱え込んでいます。けれど、読者はヒロの視点でしか物語が分かりません。ヒロが見ているものと、周囲のクラスメイトや大人が見ているもの、そして何より、杉森くんが見ているものに、どこかズレを感じてしまうのです。ミステリーというほど謎が深いわけではありませんが、そのちょっとした感情や認識のズレが、よりこの作品の面白さを際立たせていました。

ヒロと杉森くんの間に何があったのか?
ヒロが抱え込んでいるものは何なのか?
そして、ヒロは杉森くんを本当に殺せるのか?

読み進めて物語の真相が分かってくると、切なさに胸が苦しくなりました。誰しも大なり小なり悩みを抱えて生きています。ヒロのように人を殺したいと思うこともあるでしょう。あるいは、自ら死んでしまいたいと思うこともあるかもしれません。そういう複雑な気持ちとの向き合い方をこの作品は描いています。

だからこそ、中高生だけではなく、大人にもぜひ読んでいただきたい素晴らしい作品だと思いました。もしも、立ち止まりそうになったとき、きっとこの作品はあなたの助けになるはずです。