Akeboshiの「A Nine Days’ Wonder(Live)」という曲が好きです。

歌詞が英語なので、初めて聴いたときは何を歌っているのか分かりませんでした。けれど、どこか悲しげな旋律や歌声が不思議と心に残ります。

個人的に人生で一番好きな曲です。どうしてこんなにも好きなのか、ずーっと、ずーっと考えています。辞書を片手に苦手な英語にも立ち向かいました。日本語ではなかったからこそ、より真剣に歌詞の意味を考えられた部分はあるかもしれません。

この記事では、「A Nine Days’ Wonder(Live)」の意訳を試みてみようと思います。

あくまでも個人的な解釈を含みますのでご注意ください。これが正解ではありません。ひとつの捉え方として、参考程度にしてもらえれば幸いです。また、この曲は2026年現在、2005年の「通常版」と2008年の「Live版」の2種類が配信されています。個人的にはLIVE版の方が好きなので、こちらの曲をベースに記事を書いていきます。

最初は驚きこそすれ、9日間程度で忘れ去られる出来事(A nine days’ wonder)

A nine days’ wonder looking back
As the sun goes down
As time goes by a sketch of life
On the wall worn out

「A nine days’ wonder」を振り返ると
日が沈むにつれて
時が経つにつれて
壁に刻まれた人生が
ただ朽ちていくだけ

曲のタイトルでもある「A nine days’ wonder」は、直訳すると「9日間の驚き」となります。その意味するところは「最初は驚きこそすれ、9日間程度で忘れ去られる出来事」です。日本語の慣用句「人の噂も七十五日」と同じ意味合いで使われます。

歌の主人公は「A nine days’ wonder」を振り返ると、壁に刻まれた「人生のスケッチ(a sketch of life)」が「擦り切れていく(worn out)」と歌います。これらの歌詞が意味するところは曲の後半にならないと理解できません。一旦、この部分は深く考えずに次へ進みます。

One day she said in the usual tone
that I don’t shine anymore
So I laughed and said “Can you bring it back?”
She stands alone watching the leaves fall

ある日、彼女はいつもの調子でこう言った
「もう輝いていないのね」
だから、僕は笑って言った「輝きは取り戻せるのかな?」
彼女はひとりで佇み、散りゆく落ち葉を見つめている

男は恋人にフラれたのでしょうか。女は問いかけに一切応えません。落ち葉を見つめていることから季節は秋から冬のようです。冷め切った二人の関係を暗示しているようにも感じられます。

また、ここで言う「輝き(shine)」とは何を意味するのでしょうか。まだこの時点ではよく分かりません。

人生はただ、過ぎていくだけ(And then life goes on)

So many places, so many ways
But there’s no way home, nowhere I belong
So many faces fade away
And then life goes on
So many places, so many ways
But there’s no way home, nowhere I belong

たくさんの場所、たくさんの道があるのに
僕が帰る道はどこにもない、僕の居場所はどこにもない
出会いと別れを繰り返し
人生はただ、過ぎていくだけ
たくさんの場所、たくさんの道があるのに
僕が帰る道はどこにもない、僕の居場所はどこにもない

曲調としては盛り上がるサビですが、歌詞の内容や泣き叫ぶような歌声に胸が締め付けられます。

自分の居場所がどこにもないことを男は嘆いています。でも、どこか諦めているのか、あるいは達観しているのか、「人生はただ、過ぎていくだけ(And then life goes on)」と歌います。このフレーズは何度も繰り返されるこの曲の核となる部分です。

ここまでの曲の前半部分では、男が何を抱えているのかが明示されていません。ゆえに歌詞の理解が難しい部分もあります。「人生のスケッチ(a sketch of life)」とは何だろう、彼女の言う「輝き(shine)」とは何だろう、「A nine days’ wonder」とは、一体何を意味するのでしょうか。

曲の後半部分になると、それらが少しずつ見えてくるようです。

僕は道を外れ、時間を無駄にした(Off the rails dream away)

Off the rails dream away
The amber lights flicker out
An old soldier lives in the dark
Says the light only causes pain

僕は道を外れ、時間を無駄にした
琥珀色の信号灯がちらつき
暗闇に生きる老兵が、こう言った
光はただ、痛みを呼び起こすだけ

「rails」は「線路」のことで「Off the rails」で「脱線」を意味します。男は「脱線(Off the rails)」して「夢を見ている(dream away)」ようですが、「dream (時間) away」で「夢を見ている気分で時間を過ごした」と使うこともできます。ポジティブな意味合いで捉えると「夢見心地な気分でリラックスした時間を過ごす」となりますが、ネガティブな意味合いで捉えると「夢見たせいで時間を無駄にした」となります。

男は時間を無駄にしたことを後悔しているのかもしれません。その焦りが「The amber lights」に現れています。「amber = yellow」です。先に「線路」が表現されているので、「点滅する(flicker out)」黄色の明かりは危険を知らせる信号灯と解釈できます。

では、この「線路からの脱線」や「点滅する信号灯」は現実的な出来事なのでしょうか。私は違うと思っています。

「A nine days’ wonder」で何かがあった男は、女に捨てられ、居場所をなくし、人生のレールから外れてしまいます。無為に過ごす時間に後悔や焦りを抱えながら、ここではないどこかを目指し、電車に乗って旅に出たのではないでしょうか。男を乗せた電車は脱線していません。ただ、男の心はレールを外れて、どこかを彷徨っているようです。

そして、男の前に「老兵(An old soldier)」が現れます。

男の知る人物でしょうか。友人? 知人? あるいは敵兵? あるいは仲間の兵士?

そう、ここで「男 = 兵士(soldier)」という可能性が浮上します。暗闇に生きる老兵は「光(light)」は「痛み(pain)」だと言います。どういう意味なのでしょうか。

僕は一人、星降る空を眺めていた(I stand alone watching the stars fall)

Now I don’t listen to him this time
I packes my bag and I walk to the bus stop
Stars start falling down like a yellow rain, like fire-works
I stand alone watching the stars fall

彼の言葉に、今は耳を貸さず
荷物をまとめてバス停へ向かおう
まるで黄色い雨のように、まるで花火のように、星々が降り始め
僕は一人、星降る空を眺めていた

男は老兵の言葉には耳を貸さずに歩みを進めます。そして、星降る空に「a yellow rain」と「fire-works」を見るのです。

このふたつのキーワードから男の正体が分かります。

「a yellow rain」は、1970年代後半から1980年代にかけて東南アジアで使用されたとされる化学兵器の意で、毒物を含む黄色い雨が降ったことに由来します。ただし、黄色い雨の真実は大量のミツバチの糞による自然現象の可能性が高いものでした。しかしながら、その後もプロパガンダ用語として「化学兵器 = a yellow rain」の言葉が使われています。

「fire-works」は、一般的には花火の意ですが、火薬の仕事という意味合いから激しい銃撃戦やミサイル発射の意味合いでも使われています。

これらの表現から、男は「ベトナム戦争の帰還兵」と解釈できます。

ベトナム戦争は1955年から1975年まで続いた冷戦期の戦争で、初めてアメリカが政治的な勝利を得られなかった戦いでした。帰還兵は長期に渡る過酷な戦闘で心的外傷を負い、帰国後も元の生活に順応できない者が多く存在しました。やがてそれは、家庭の不和や暴力、薬物やアルコール中毒、犯罪、あるいは自殺など、大きな社会問題に発展します。今でこそ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)は広く知られる疾病ですが、ベトナム戦争後の1980年に米国精神医学会に初めて認められたものでした。

男がベトナム帰還兵と解釈すると、曲の冒頭にある「壁(the wall)」の意味が理解できます。

この壁は、アメリカのワシントンにあるベトナム戦争戦没者慰霊碑、通称「メモリアル・ウォール」のことです。全長75メートル、高さ3メートルに及ぶ壁には、5万8千人以上ものベトナム戦争の戦没者の名前が刻まれています。

そこには男の知る名前があったのかもしれません。けれど、その「名前(a sketch of life)」は月日と共に「朽ちていく(worn out)」ものだと歌います。戦場を共にした仲間たちが、いずれ誰からも忘れ去られ、朽ちていく存在(A nine days’ wonder)になってしまったことに、思うところがあるのでしょう。

戦争から生還できたにも関わらず、かつての友は死に、家族とも相容れず、自分の居場所はどこにもなく、心安らぐ生活を取り戻すことはできませんでした。そして、人生のレールから外れてしまった男に老兵が警告を発します。

光はただ、痛みを呼び起こすだけ(Says the light only causes pain)

この「光(the light)」は、平和とか希望とか未来、あるいは正義と言い換えてもいいと思います。老兵はきっと彼自身の姿です。戦争が終結してもなお、どれだけの時が過ぎようとも、ひとりの老兵がいつまでも心の奥底で消えることなく、男を暗闇へと手招きます。

おまえのやったことは正しかったのか? あの戦争に意味はあったのか? と。

男は老兵の言葉を振り切って電車を降りますが、目の前に広がる星降る空に、かつての戦場で見た光景を重ねてしまいます。美しい光景を前に無言で立ち竦む男の目には、どうやら違う光景が見えているようです。空からは化学兵器による黄色い雨が降り注ぎ、絶え間なくミサイルや銃撃が飛び交います。

こうして歌詞の解釈を試みると、男がとんでない絶望の淵にいることが理解できます。

それなのに、「Now I don’t listen to ~」の部分は、短くテンポの良い音を繋げることで小気味よさが表現されており、まるでこれから楽しい冒険に出かけるかのような高揚感が感じられます。続く、「Stars start falling down ~」では、星降る美しい空に感動していると捉えることさえ可能です。そう、ここでは男が何を考えているのかが一切描写されていないので、「ベトナム帰還兵」というキーワードに気がつかないと、ただの楽しく美しいシーンに見えてしまうのです。

けれど、繰り返しますが、男は今、とんでもない絶望の淵にいます。

歌詞には現れない悲しみや苦しみの感情を、Akeboshiは歌唱力で表現しています。ここが本当に凄いと私は思いました。初めて聴いたときは歌詞の意味が分からず、でもリズムは楽しそうで、でもどこか歌声は苦しそうで、何か不思議な違和感を感じたことを今でも覚えています。

そして、繰り返されるサビと間奏を経て、ラスサビに突入します。

僕はまだ、この世界で生きている(Still living in a world we know)

Still living in a world we know
Still living in a world we know
Still living in a world we know
Hold on there
And then life goes on

僕はまだ、この世界で生きている
僕はまだ、この世界で生きている
僕はまだ、この世界で生きている
ここにしがみついたまま
人生はただ、過ぎていくだけ

in a world we know」の解釈に悩みます。

「私たちが知るこの世界で」という意味ですが、男は自分たちのことを「いずれは誰からも忘れられる存在(A nine days’ wonder)」と捉えています。ここに、「we know」という言葉が存在する理由があるような気がします。また、「in the world」ではなく「in a world」な点も悩みどころです。「in the world」なら「(現実的な)この世界」となりますが、「in a world」なら「(いくつかあるうちの)この世界」と微妙にニュアンスが変化します。ここの解釈は、次のニュアンスが込められていると私には感じられました。

誰もがこの世界のことを知っているけれど、誰も自分のことを知らない)この世界で。

誰かが自分のことを知っている世界があったかもしれないけれど、そうはならなかった)この世界で。

そんな世界で、僕はまだ生きている。

絞り出すようなその歌声に、激しい魂の慟哭に、私は胸が震えます。きっとこの男にとって、世界は悲しみや苦しみに満ちており、絶望で塗り潰されたものであるはずです。でも、男はその世界で生き続ける意思を見せました。だから、泣き叫びながら歌っていても、やがては立ち上がり、歩き出すような気がするのです。そこに救いはないのかもしれないけれど、それでも人生はただ過ぎていくという、その姿勢に、私は感動を覚えました。

この曲をいったい何度、繰り返し聴いたことでしょう。

苦しいとき、涙が流れていても歩き出すための勇気をくれました。楽しいとき、あまり調子に乗らないよういつでも心を落ち着かせてくれました。苦しいことも楽しいことも、所詮は「A nine days’ wonder」に過ぎません。

そして結局のところ、誰もが「And then life goes on」していくだけなのです。

意訳まとめ

A nine days’ wonder looking back
As the sun goes down
As time goes by a sketch of life
On the wall worn out

僕の人生を振り返ると
日が沈むにつれて
時が経つにつれて
壁に刻まれた人生が
ただ朽ちていくだけ

One day she said in the usual tone
that I don’t shine anymore
So I laughed and said “Can you bring it back?”
She stands alone watching the leaves fall

ある日、彼女はいつもの調子でこう言った
「もう輝いていないのね」
だから、僕は笑って言った「輝きは取り戻せるのかな?」
彼女はひとりで佇み、散りゆく落ち葉を見つめている

So many places, so many ways
But there’s no way home, nowhere I belong
So many faces fade away
And then life goes on
So many places, so many ways
But there’s no way home, nowhere I belong

たくさんの場所、たくさんの道があるのに
僕が帰る道はどこにもない、僕の居場所はどこにもない
出会いと別れを繰り返し
人生はただ、過ぎていくだけ
たくさんの場所、たくさんの道があるのに
僕が帰る道はどこにもない、僕の居場所はどこにもない

Off the rails dream away
The amber lights flicker out
An old soldier lives in the dark
Says the light only causes pain

僕は道を外れ、時間を無駄にした
琥珀色の信号灯がちらつき
暗闇に生きる老兵が、こう言った
光はただ、痛みを呼び起こすだけ

Now I don’t listen to him this time
I packes my bag and I walk to the bus stop
Stars start falling down like a yellow rain, like fire-works
I stand alone watching the stars fall

彼の言葉に、今は耳を貸さず
荷物をまとめてバス停へ向かおう
まるで黄色い雨のように、まるで花火のように、星々が降り始め
僕は一人、星降る空を眺めていた

So many places, so many ways
But there’s no way home, nowhere I belong
So many faces fade away
And then life goes on
So many places, so many ways
But there’s no way home, nowhere I belong
So many faces fade away
And then life goes on

たくさんの場所、たくさんの道があるのに
僕が帰る道はどこにもない、僕の居場所はどこにもない
出会いと別れを繰り返し
人生はただ、過ぎていくだけ
たくさんの場所、たくさんの道があるのに
僕が帰る道はどこにもない、僕の居場所はどこにもない
出会いと別れを繰り返し
人生はただ、過ぎていくだけ

Still living in a world we know
Still living in a world we know
Still living in a world we know
Hold on there
And then life goes on

僕はまだ、この世界で生きている
僕はまだ、この世界で生きている
僕はまだ、この世界で生きている
ここにしがみついたまま
人生はただ、過ぎていくだけ

Still living in a world we know
Still living in a world we know
Still living in a world we know
Hold on there
And then life goes on

僕はまだ、この世界で生きている
僕はまだ、この世界で生きている
僕はまだ、この世界で生きている
ここにしがみついたまま
人生はただ、過ぎていくだけ

おまけ

最後まで読んでいただきありがとうございます。ここまで読んで頂いた貴方には、ぜひ次の曲をおすすめしたいです。

1曲目は松たか子の「時の舟」、2曲目はAkeboshiの「神様の舌打ち」です。どこか聞き覚えのあるメロディですね?